イランが欧米との対話を中断し、国内でのウラン濃縮活動を拡大する動きを見せている。このままだと、新たな国連の経済制裁決議を招く可能性がある。強硬路線は孤立をいっそう深めるだけだ。
イランは核開発について、発電や医療用など平和利用だと主張している。米国や英国、フランスなど核保有国がイランの核開発を阻止しようとするのは「公正ではない」と反発を強めている。
イランが保有する低濃縮ウランを国外に搬出し、ロシアやフランスがそれを再濃縮、燃料化して再び国内に戻す−。国連安保理の五常任理事国とドイツが構想を提示し、イランは協議に応じた。
この構想には、イランが備蓄する濃縮ウランを減らし軍事転用を防ぐ狙いがあった。結局、合意できず、国外搬出を拒否した。
強硬姿勢の背景には国内事情もある。六月の大統領選をめぐる保守、改革両派の対立はいまもくすぶる。アハマディネジャド大統領やイスラム教の高位聖職者らは「弱腰」との批判を恐れて、核問題で譲歩しにくいとみられる。
国際原子力機関(IAEA)が中部コムの濃縮施設を査察しても不透明さは消えず、IAEA理事会は先月末、施設の建設即時停止を決議した。平和利用だと主張しても、証明は不十分だ。
軍拡路線が止まる気配がないのも国際社会の不信を招いている。
今月に入り、射程二千キロの中距離弾道ミサイル「セジル2」の発射実験をした。イスラエルやアラブ諸国の大半を射程に収める。また、バンコクの空港でグルジアの貨物機から北朝鮮製の対戦車ロケット砲などの武器が押収されたが、最終的な行き先はイランだとの報道もある。
オバマ米政権は来年早々にも国連安保理にイランに対する追加経済制裁を提案するよう、常任理事国に働きかけている。これまで融和的だったロシアも同調する可能性が高い。新たな制裁にはガソリン禁輸が含まれそうで、市民生活はさらに厳しくなるだろう。イランは欧米との交渉に戻るべきだ。
イラン政府は先月、国内にウラン濃縮施設十カ所を新たに建設すると発表した。短期間で建設する技術力はないといわれ、外交の駆け引きだとの見方もある。欧米側もイランの真意を見極め、粘り強く説得して対話のテーブルに着かせたい。
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