日本では実感しにくいが、世界の多くの人々にとり、今夜は特別なひとときだ。日本の元旦に近い。米本土の最南端にある保養地、フロリダ州キーウェストのクリスマスイブを取材したことがある。店は早じまい。人影もまばらだった。
▼いつもと違う、静かなアメリカがあった。キリスト教は欧米の宗教ではない。発祥の地は現代風にいえば中東であり、西に向かって広まった。地理的な距離感は、インドで始まった仏教が東に向かい、日本でも定着したのと似ている。キリスト教も、仏教も、その過程で、それぞれの地に合った味つけもなされた。
▼例えば、日本の賛美歌には、キリスト教が解禁された明治初期の美しい文語調の日本語が残る。「主われを愛す/主は強ければ/われ弱くとも/恐れはあらじ」。これには方言版もある。川上善子牧師によれば、大阪弁版は「えっさん/わてすいてはる……」。「えっさん/わいすいとおと……」は、博多弁版だ。
▼文語調には力強さがあり、勇気づけられる。方言版は、親しみを感じさせる。きょう世界中で歌われる賛美歌が「きよしこの夜」。ほとんどの国の言葉に訳されているクリスマスキャロルだ。バブルは遠くなりにけり、である。歌のような、静かな夜を待ちたい。一句浮かぶ。「国境の眠れる村に聖夜くる」――。