雇用不安をさらに広げる恐れがあるのではないか。労働者派遣法の改正は与党3党のマニフェスト(政権公約)に沿って、派遣という働き方を原則として禁じる方向になった。
労働政策審議会で派遣法改正の原案が示された。仕事があるときだけ働く登録型派遣は、秘書や通訳など専門性のある26業務などを除いて禁じるとしている。
製造業への派遣も、労働者が派遣会社と契約した期間内の賃金が保証される常用雇用型の派遣以外は、禁止になる。いわゆる日雇い派遣も期間が2カ月以内はできなくなる。
このまま法改正が進めば派遣で働いている多くの人たちが、かえって困るだろう。原案は経営側の要望を受け禁止の例外扱いを増やしたが、昨年6月1日時点の派遣労働者202万人のうち、実際に派遣で働けなくなる人は44万人にのぼる計算だ。
派遣を原則禁止にする一方で、派遣で働いていた人が職を失わずにすむ手立てを原案が示していない点は大きな問題だ。
現在、人材派遣会社と契約を結んでいる一般事務などの人たちがすぐに失職する混乱を防ぐため、登録型と製造派遣の禁止については猶予期間を設け、改正法案の公布日から3年以内の施行とすることにした。
しかし、この経過措置の間に景気が回復している保証はなく、派遣契約を終了した人たちがすぐに次の職を見つけられるとは限らない。
景気の下支えに手を打っていかなければならないときに、雇用を増やすどころか、減らす恐れのある規制強化を始めようとしていることに、強い違和感をおぼえる。法改正の原案では法律の名称と目的に「派遣労働者の保護」を明記するとしているが、矛盾がありはしないか。
派遣労働者の雇用が現在のように不安定なままでいいとは、だれも思っていないだろう。非正規社員と正社員では賃金など労働条件に差がありすぎる。この処遇の是正に企業は積極的に取り組む必要がある。
ただし、企業に非正規社員から正社員への転換を強制はできない。「働きたいときに働く」ことを選ぶ人たちは多く、派遣という形態は働き方の多様化を支えている。この働き方そのものを否定すべきではない。
雇用の伸びない産業から医療、情報分野など成長産業へ労働力を移すうえでも、労働市場の機能を生かした労働者派遣は有効な手段だ。
今後の法案作りのなかで、登録型派遣と製造派遣の「原則禁止」は見直すべきだ。さもないと、日本経済がさらに活力を落としかねない。