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春秋(12/22)

 我々の遠い先祖は、冬の来る前に穴を掘り、熊(クマ)や狐(キツネ)やの獣と共に、小さくかじかまつて生きたへていた。おそろしい冬において、何よりも人々は火を愛した――。詩人の萩原朔太郎は、たき火を囲む心を「先祖の情緒の記憶」と呼んだ。

▼道端のたき火を見かけなくなって久しい。環境や健康への配慮から、東京都が原則禁止の条例をつくったのが10年前。人と物がひしめく都会で煙を上げれば、たしかに迷惑だろう。集めた落ち葉は、運び去るのがエチケットとなった。それでもどこかから木が焦げる香りが漂うと、懐かしい冬の記憶がよみがえる。

▼学校の帰り道、垣根の曲がり角でたき火を見つける。北風がぴいぷう吹いている。あたろうか、あたろうよ。子供たちが相談するのは、暖かさに慣れると立ち去り難くなると知っているからだろう。知らない大人に交じって手をかざす。黙っていても仲間のような気がしてくる。そんな優しい力がたき火にはある。

▼雇用にも木枯らしが吹いている。職を探して寒空の下を歩く人が増え、政府は緊急対策の策定に忙しい。暖房が利いた家に、運よくたどり着く人もいるだろう。ひとときの暖を求めて、公的な支援に足をとめる人もいるだろう。温かく迎え入れて、長居をさせず背中を押して送り出す。そんなたき火があればいい。

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