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冬の星座がきらめく空へ、宇宙飛行士の野口聡一さんが飛びたっていった。カザフスタンのバイコヌール基地は、ソ連時代にガガーリンが人類初の宇宙飛行をした記念の地でもある。帰還しての「地球は青かった」はあまりに名高い▼だが、それと対(つい)のように語られた言葉は忘れられた。成功の翌日、小紙はこう伝えている。「空はとても暗かったが、地球は青みがかっていた」。つまり「宇宙は暗黒だったが、地球は青かった」と。二つの対比があってこそ、感動への理解はいっそう深まるように思われる▼その表現は、のちに月から見た地球の姿の先触れでもあった。前にも書いたが、茨木のり子さんの詩の一節にこうある。〈生まれてこのかた なにに一番驚いたかと言えば 水一滴もこぼさずに廻(まわ)る地球を 外からパチリと写した一枚の写真 こういうところに棲(す)んでいましたか……〉▼鏡に映る己(おの)が姿を見ると、人は自分の存在をより意識し、自己愛も強まるという。それに照らせば、宇宙開発とは、人類が地球を愛(いと)おしむのと表裏一体の営みでもあろう▼「地球上の争いの何というケチくささ、と世界中のたれもが人工衛星一号の時言った。あれから四年」と、ガガーリンの飛行のとき小紙夕刊の「素粒子」は書いている。その後も争いの止(や)まぬ世界への皮肉だった▼それからさらに48年。争いにこりず、加えて温暖化で自然を痛めつける人類の姿が地上にある。天上の野口さんからのメッセージで、漆黒の空間に浮かぶ奇跡への思いが、広く深く養われればいいのだが。