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【社説】

週のはじめに考える 冬来りてオバマ政権

2009年12月21日

 オバマ米政権が発足してほぼ一年。内外政策の停滞を前に支持率も低下し、厳しい冬を迎えています。変革の暖かい風は再び吹くのでしょうか。

 オバマ大統領の東京演説が行われた先月のサントリーホール。弦楽カルテットの前奏が始まっただけで隣席の若い女性は、人気歌手登場を待ちかねるようにそわそわし、興奮気味でした。

◆手段は戦争しかないのか

 太平洋国家としての米国を打ち出した演説は魅力的な語り口で、拍手に遮られる場面も度々ありました。しかし、世界中に少なからぬ感動を与え続けてきた就任当時の数々の名演説に比べると、やや期待感をそがれた印象は拭(ぬぐ)えません。オバマ政権が誕生してほぼ一年、何かが変化しているのです。

 その一例を、オバマ大統領が行った「イスラムとの対話」に関する演説と、ノーベル平和賞受賞演説の間に見ることができます。

 四月にアンカラで行った演説ではイラクとアフガニスタン二つの戦争を踏まえながら、「米国はイスラムと戦争状態にはないし、今後も決してならない」と宣言しました。六月のカイロ演説でも、イスラムとの歴史的対話へ一歩を踏み出す決意をあらためて示しました。

 これに対して、先のオスロ演説では、旧ナチ政権やユーゴスラビア紛争を例示し「平和は願望だけではまれにしか達成できない」として、国益を守るための「正しい戦争」を肯定しました。

 宗教的な大義に名を借りる狂信的なテロ行為を厳しく取り締まることは当然のことです。しかし、それは戦争という手段でしか解決できないものでしょうか。大統領選挙の対立候補だったマケイン米上院議員が「戦争のパラドックス」を論じたことがあります。

◆欧州が示した失望感

 「人を殺(あや)める戦いは罪だ。しかし、悪を前に戦わない罪はそれ以上に重い」との論理でした。「テロとの戦争」という言葉を封印し、ソフトパワーを重視する新たなアプローチを示していたオバマ政権は、前政権の立場に回帰してしまったかのようです。

 イスラム対話の核心にあるパレスチナ和平では、具体的な進展が何もみられていません。イスラエル保守政権側にも、未(いま)だオバマ氏が自国を訪問しないことに大きな不満と不信が出始めています。

 西欧近代を否定するビンラディン容疑者の過激な主張は、アフガンでもイラクでも不気味な拡大を続けています。アラブ系軍医がテキサス州の陸軍基地で起こした乱射事件は、過激思想との関連も指摘されており、衝撃は未だ収まっていません。

 こうした現実を前に、オバマ氏は、自ら尊敬するキング牧師、ガンジーの唱えた平和主義に限界を認め、現実主義への切り替えを始めたのでしょうか。核廃絶にしても、四月のプラハ演説で唯一の核使用国としての道義的責任をもって、廃絶に向けて行動していくことを明言しましたが、その一方で常に指摘している抑止力の維持に重点を移していく意向なのでしょうか。

 独主要誌シュピーゲルは「間違った時期の間違った受賞」と今回のノーベル賞を批判しました。欧州の失望感は、宗教戦争と民族主義の戦争に明け暮れた数世紀の悲惨な経験によります。

 オバマ政権は東欧革命から二十年の節目に誕生しました。東欧革命はフランス革命から二百年の年でもありました。フランス革命による秩序崩壊は欧州史上「ウィーン体制」によって回復されましたが、そこには厳しい社会的弾圧や規制を伴ったため、反動的な政治体制としてのイメージが定着したままです。

 今、書店にはそのウィーン体制の再検討を試みた本が散見されます。キッシンジャー氏のハーバード大学博士論文を出版した「回復された世界平和」と並んで目を引くのは、欧州史研究家で知られる塚本哲也・東洋英和女学院大名誉教授の「メッテルニヒ」です。

 宰相メッテルニヒが生涯をかけたのは、伝統的な正統性に基づく国際秩序の回復でした。その基本的な考え方は勢力均衡です。塚本名誉教授は、戦争に訴えることなく、対話を通して平和裏に外交問題を解決する欧州連合(EU)のそもそもの原点をここに辿(たど)ろうとしています。

◆平和的秩序に期待と責任

 G20といい、G2といい、地球規模の新たな勢力均衡のせめぎ合いといえるでしょう。新しい国際秩序の萌芽(ほうが)は見え始めています。

 冬来りなば春遠からじ。ウィーン体制と同時代の英詩人シェリーの言葉だそうです。オバマ政権にとっては厳しい冬越えですが、冷戦後の平和的国際秩序の指導者たる期待と責任を背負っていることは忘れてほしくありません。

 

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