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【コラム】

筆洗

2009年12月20日

 新田次郎の小説『芙蓉(ふよう)の人』は、明治二十八(一八九五)年に、冬の富士山頂の気象観測に初めて挑んだ野中到、千代子夫妻の情熱と苦闘を描いた名作だ。その中に冬の富士山登頂を初めて成功させた到が、突風の怖さを父に語る場面がある▼「富士山の冬の風はおそるべき風です。どっちからともなく突然吹いて来る強風です。その風にやられたときの感じは、暗い夜道を歩いていて、いきなり突き飛ばされたのと同じようなものでした」。予測できない風は、今も脅威なのだろう▼元F1レーサーの片山右京さん(46)一行が富士山で遭難。片山さんの経営する会社の社員二人の遺体がきのう、六合目付近で見つかった▼「全部自分の責任」と号泣した片山さんは、冒険家として南極大陸の最高峰の山に登るための訓練に来ていた。二人が寝ていたテントは強風で吹き飛ばされ、約二百メートル下まで滑落した▼独立峰の富士山では、山肌で二つに割れた風が裏側でぶつかり合う。「エベレストの気象条件と同じ」(富士吉田市のホームページ)という冬の厳しい自然が襲いかかった▼正確な天気予報のために、命懸けで観測した『芙蓉の人』の到と千代子は疲労や栄養不足で病に倒れ、二人で観測を始めて約七十日後に救出された。自然の力の前では人間は小さな存在だ。命を代償にしないと、それを思い出せないのが悲しい。

 

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