全国健康保険協会(旧・政府管掌健康保険)が後期高齢者医療制度へ納めるべき「支援金」を、政府は健康保険組合などに一方的に肩代わりさせようとしている。その前にすべきことがある。
七十五歳以上を対象にした後期制度では、医療費の四割を支援金として被用者保険(健保組合、共済組合、協会けんぽ)、国民健康保険(国保)が七十四歳までの加入者数に応じて負担する仕組みになっている。
協会けんぽでは厳しい経済状況で被保険者の賃金減少に伴い保険料収入が減り、保険料率を現行の全国平均8・2%(労使折半)から来年度は9・9%に引き上げざるをえない。月収二十八万円の場合、年六・四万円の増加になる。
協会けんぽの救済のために厚生労働省が先に示したのは、来年度から被用者保険内での支援金の負担方法を、従来の加入者数割りから総収入割りへ変更する案だ。
この通り実行されると、支援金は協会けんぽが二千五百億円減り、健保組合、共済組合がそれぞれ千四百億円、一千億円増える。健保組合の中には既に保険財政が逼迫(ひっぱく)しているところが少なくなく、解散に拍車をかけることになる。
問題は、協会けんぽへの支援方法が場当たり的なことだ。
協会けんぽには中小企業の従業員らと家族が加入しており、健保組合よりも給与水準が低い。このため健康保険法に医療費総額の「16・4〜20%」の国庫補助が明記されているが、好景気の一九九二年に付則で現行の13%に下げた経緯がある。その際、協会けんぽの財政が悪化したときには元に戻すことを政府は約束している。
健保組合などに付け回しをする前にこの約束を履行すべきだ。必要な財源は税で賄うべきである。
一方、医師、歯科医師、薬剤師、建設関係者などが加入する百六十五の「国保組合」には年間三千億円の税が投入され、余剰金で医療機関での窓口負担を通常の三割よりも低くしている国保組合が少なくない。こうした優遇措置をなくし負担を平等にするのが先決だ。
支援金の負担方法の変更は後期制度の根幹にかかわる問題であり、長妻昭厚労相が先月発足させた「高齢者医療制度改革会議」で議論する課題だ。その結論を待たず、予算編成に合わせて急いで決めるべきではない。
国庫補助の健保組合による肩代わり問題は二年前にも起きた。そのとき民主党は反対した。今回容認する理由を明確にすべきだ。
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