座右の銘というほど大げさではないが、とても好きな言葉がある。<棚の下にいなければ、落ちてきたぼた餅(もち)は受け取れない>。思いがけない幸運が到来しても、それを手中にするには、地道な努力が欠かせないという意味だ▼誰が考えたのかは分からない。学生時代、友人から聞いて妙に納得してしまった。例えば、新聞記者が特ダネを書きたいと思うなら、人脈をつくり、地道な取材を重ねるしかない。努力をしない記者に、スクープ情報が舞い込んでくるような都合のいいことはないのだ▼この言葉を熱く語ると、面白がる人とけげんな顔をする人は半々ぐらいだが、放送作家の高田文夫さんが、落語家の立川談春さんとの対談で同じ趣旨のことを語っていて意を強くした▼日の当たらない芸人も、一生に一、二回はチャンスがある。その時に、バットが振れるか。「スイングもできなかったらそれまでなんだよ。振らなきゃ絶対当たんないんだから。それには普段から素振りを繰り返しておくしかない」(『今おもしろい落語家ベスト50』)▼政治でいうなら、野党暮らしであっても、政権奪取に備え政策立案能力を磨くことが素振りを繰り返すことなのだろう。政権交代は民主党が「棚の下」で受け取る構えはとれていたからだ▼ただ、最近の迷走ぶりを見ていると、素振りの回数は足りなかったのかもしれない。