中国次世代のリーダーとされる習近平国家副主席が来日し鳩山由紀夫首相との会談で関係発展を誓い合った。未来に向けた訪問の成果を損なったのは天皇陛下の特例会見に至る、つたない外交だ。
習副主席は十五日の歓迎パーティーで、中国の一人当たり国内総生産(GDP)は世界で百四位という数字を挙げ「発展途上国」の立場を強調した。「中国の近代化に向けた日本の協力に感謝する」と謙虚な発言に終始した。
胡錦濤国家主席の日本重視を受け継ぐ立場を表明したことを歓迎したい。
それだけに天皇会見実現までの外交的不手際と表面化した首相官邸と宮内庁の対立が訪日に影を落としたのは残念な限りだ。
中国外交当局は天皇会見は一カ月前までに申し出るというルールを日本側から知らされていた。それに間に合わなかったにもかかわらず、一九九八年の胡錦濤国家副主席(当時)の訪日と同じように天皇会見実現を強く要請した。
ただ、胡副主席は六日間も日本に滞在したが、習副主席はアジア四カ国歴訪の途上、三日間立ち寄るだけ。外務省が宮内庁の意向を受け当初、会見を断ったのは一つの外交的見識といえる。
しかし、習氏を次期最高指導者と決め込んだ鳩山首相と官邸は中国の要請で会見受け入れに踏み切った。この判断も疑問は残る。
九八年当時の胡氏は最高実力者の故〓小平氏が、江沢民氏の後継者として事実上指名した人物で、その立場に揺るぎはなかった。習氏には胡氏側近の李克強副首相というライバルが存在し習氏絶対有利とみられているものの、後継レースは最終的に決着していない。
九月の党中央委員会全体会議でも次期最高指導者へのステップとされる党中央軍事委員会副主席への就任は見送られた。習氏の権力継承に異を唱える勢力が存在し決着は二〇一二年の党十八回大会まで持ち越される可能性もある。
複雑な中国情勢の中で、鳩山首相が「次世代リーダーとしてお出ましいただいた」と習氏を持ち上げ、天皇会見という破格の待遇をしたことを習氏に対抗する勢力はどう受け止めたか。
習氏にも「ひいきの引き倒し」になりかねず、それを恐れる習氏は終始「胡指導部の一員」としての立場を強調し控えめだった。
一知半解と言わざるを得ない鳩山政権の中国理解が招いた今回の混乱が、日中関係の将来に禍根を残さないよう祈るのみである。
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