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天声人語

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2009年12月17日(木)付

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 サスペンス映画の巨匠ヒチコックには「巻き込まれ型」の筋立てが多い。善良な市民がいつの間にか事件の犯人にされていく。実話をもとにヘンリー・フォンダが主演した「間違えられた男」をご記憶の方もおられよう▼桜井昌司さんと杉山卓男さんの2人が「間違えられた男」だったのは、ほぼ確実なことらしい。42年前に茨城で男性が殺された「布川(ふかわ)事件」で、有罪になった両人の再審が決まった。ともに29年拘束され仮釈放されている。失われたものはあまりに大きい▼はなから犯人扱いされ、朝から晩まで「自白しろ」と言われ続けたそうだ。自白に転じる一押(ひとお)しはうそ発見器だったと桜井さんは言う。公平な機械にすがる思いだったが、取調官に「すべてうそと出た」と言われ、耐えていた心が折れた▼「最初の『やりました』という一言が、取り調べの山である」と、冤罪事件に連座した経験のある評論家の青地晨(しん)が書いている。「あとは際限ない自己崩壊が続き、完全に係官のロボットになる」と。密室の恐ろしさである▼菅家利和さんの「足利事件」も自白の強要と偏重が根っこにあった。さらに今回、検察は2人に有利な目撃証言などを伏せてもいた。正義と公正を欠いた司法権力は野に放たれた虎にも等しい▼ヒチコックの映画にはハッピーエンドが多いが、冒頭のはそうでもない。主人公の嫌疑は晴れるが、ショックで心を病んだ妻は元に戻らない。失われたものの象徴だろう。当時20歳だった桜井さんと21歳だった杉山さんは、いま62歳と63歳になっている。

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