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天声人語

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2009年12月16日(水)付

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 自由主義者で知られた清沢洌(きよし)は戦時中に「暗黒日記」をつづった。終戦の年の1月2日、戦争をあおる徳富蘇峰の書いた新聞記事を引いている。なんと敵の爆弾が東京に落とされるのを期待する記事である▼帝都の真ん中に落ちる敵弾だけが国民を覚醒(かくせい)させ、「一億皇民の心構え」を固くする――という書きぶりは時代の狂気そのものだ。清沢は蘇峰の無責任を批判するが、ほどなく東京は激しい空襲に遭う。一夜にして約10万人が命を奪われた▼その東京大空襲の被災者や遺族が、国に謝罪と賠償を求めた裁判の判決がおとといあった。東京地裁は訴えを棄却した。「心情は理解できる」としつつも、立法によって解決すべき問題だと退けた▼軍人には年金や恩給がある。だが一般の戦災は多く放置されてきた。その理不尽を原告は問うた。当時の国土は戦場さながらだった。国はことあるごとに「一億」という表現で軍民一体の総力戦を鼓舞した。歴史を思えば訴えには理がある。ちなみに蘇峰の記事の題も「一億英雄たれ」だった▼〈あなた方は逝ってしまった 口紅やおしろいに触れることもなく……木陰に子を眠らせる母となることもなく〉。これは大阪の空襲で落命した動員女学生を悼んだ詩人、島田陽子さんの一節だ。東京ばかりでない。全国で60余の都市が空襲の炎に巻かれて燃えた▼原告の平均年齢は77歳という。なお控訴する姿に、「戦争のせい」「時代が悪かった」という諦(あきら)めをはねのける怒りを見る。怒りの中に、次世代がくむべき重い戦争体験は限りない。

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