HTTP/1.1 200 OK Connection: close Date: Mon, 14 Dec 2009 23:16:10 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Age: 0 東京新聞:東京大空襲判決 『救って』の声が疼く:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

東京大空襲判決 『救って』の声が疼く

2009年12月15日

 東京大空襲で受けた被害救済の訴えは、届かなかった。老いた原告らは癒えぬ、戦争の“生傷”を背負って生きてきた。「救って」の声がなお疼(うず)く。悲惨な歴史を後世まで忘れぬようにしたい。

 六十四年前、東京の下町一帯は火の海だった。米軍による無差別爆撃で、死者は十万人を超え、被災者は百万人にものぼった。

 被害に遭った原告らは、日本政府が講和条約で米国に対する損害賠償を放棄したことを踏まえ、責任は国にあるとし、謝罪と損害賠償を求めていた。

 東京地裁は「原告の主張も、心情的に理解できないわけではない」としつつも、「当時の日本国民のほとんどが何らかの形で戦争被害を負っていた」と述べ、原告の訴えを退けた。

 名古屋空襲をめぐる訴訟では、最高裁が一九八七年に「戦争被害は、国民の等しく耐え忍ぶべきもの」とした。今回の判断も結果的に、その延長線上にあろう。

 戦後、長く尾を引いてきた問題である。七三年に民間人の被害救済の法案が提出され、八九年まで議論されたが、実らなかった。当時、日弁連が憲法の「法の下の平等」などに基づき、民間戦災者の援護法制定を求める決議をしたこともある。

 軍人や軍属らには、恩給や年金などが支給されている。原爆の被害者にも、医療特別手当などが支給されている。中国残留孤児らも国の援護の対象だ。空襲被害者が置き去りでいいのか。この訴訟はそんな問題を投げかけている。

 英国など西欧諸国では、民間の被害者も補償している。敗戦国であったドイツやイタリアでも同じだ。人権や平等の観点に立つ補償制度といえよう。

 判決は「救済は政治的配慮に基づき、立法を通じて解決すべきだ」とも述べた。そうならば、政治の出番ではないのか。

 原告の平均年齢は七十七歳である。両親を亡くし、戦争孤児となった人たちも多い。戦後の過酷な境遇が察せられよう。

 空襲は名古屋、大阪など全国六十七都市に及んだ。国民全体の補償制度がつくれないものか。人道主義に立つならば、救済策に知恵を集めてほしい。

 オバマ米大統領は核軍縮への責任を認め、「広島、長崎に訪問できれば名誉だ」と述べた。

 こうした姿勢が、大量破壊兵器による無差別爆撃という悲劇にも示されれば、多くの犠牲者の鎮魂にもなろう。

 

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