中国の習近平国家副主席と天皇陛下との会見がきょう行われる。一カ月前までに申請するという通常の手続きから外れて設定された会見は、天皇の政治利用との批判を招き、日中友好をも傷つけた。
天皇と外国賓客との会見を設定するには一カ月以上前に申請する「一カ月ルール」があるという。
このルールは、会見が増え続ける状況を受けて一九九五年に文書化され、天皇陛下が前立腺がんの手術を受けられた翌年の二〇〇四年以降は厳格に適用されてきた。陛下の年齢や健康に配慮し、負担を軽くするためだ。
今回、中国政府の要望を受けた外務省が打診したのは十一月二十六日。宮内庁はルール上、受け入れられない旨を回答したが、平野博文官房長官は羽毛田信吾宮内庁長官に今月七日と十日の二回、電話で「日中関係は重要」「首相の指示」などと迫ったという。
首相指示に、十日から民主党国会議員百四十人以上を引き連れて訪中した小沢一郎幹事長の意向が反映された可能性も指摘される。
習氏は胡錦濤主席の最有力後継者と目される。胡主席が副主席当時に来日した際も陛下と会見しており、習氏との会見は日中親善に有意義だろう。
しかし、鳩山政権がルールを破ってまで会見を実現させたことは会見の意義を減じさせないか。
羽毛田氏は記者会見で「賓客との会見は国の大小や政治的重要性などでは差をつけないで実施されてきた」と強調した。
時の政権によって天皇の会見が恣意(しい)的に扱われれば、憲法で「国政に関する権能を有しない」と定められた象徴天皇を政治利用することになりかねない。
鳩山由紀夫首相は「一カ月を数日間切れば、しゃくし定規でダメだというのは、国際親善の意味で正しいことなのか」と説明したが、政治利用との疑念が持たれるようなことは厳に慎むべきだった。
会見設定をめぐり、実現を望む中国側の強い意向も明らかになった。日本政府が中国側の姿勢に屈した形に映れば、首相の狙いとは裏腹に、日本国民の対中感情を悪化させ、日中友好を損ねることになりかねない。
首相官邸・小沢氏側と羽毛田氏との軋轢(あつれき)が表面化し、混乱した印象を与えていることも残念だ。
政権発足から三カ月足らず。外交に不慣れなことは理解するにしても、象徴天皇制など憲法の根幹にかかわる部分で「未熟な政治」は断じて許されるものではない。
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