HTTP/1.0 200 OK Age: 232 Accept-Ranges: bytes Date: Mon, 14 Dec 2009 22:17:19 GMT Content-Length: 7655 Content-Type: text/html Connection: keep-alive Proxy-Connection: keep-alive Server: Zeus/4.3 Last-Modified: Mon, 14 Dec 2009 14:23:05 GMT NIKKEI NET(日経ネット):社説・春秋−日本経済新聞の社説、1面コラムの春秋

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春秋(12/15)

 ポール・サミュエルソン教授に、しかられたことがある。講演の後に走り寄って、著書にサインを頼んだら、こちらの顔をジロリと見てこう言った。「経済学は厳しい学問なのですよ」。20年前のボストンでの恥ずかしい思い出である。

▼折しも貿易摩擦と日本叩(たた)きが全盛の時期。日本人は「ナンバーワン」だと浮かれ、米国人は自信を失っていた。教鞭(きょうべん)をとるマサチューセッツ工科大学(MIT)では、感情的な政策論議が高まっていた。教授はそんな落ち着かない空気を避けていた節がある。閉め切った部屋の扉が無言で周囲の動揺を制していた。

▼経済学の巨人が得意とした技は数学である。フランスの化学者ルシャトリエの熱力学の理論を、若い学生時代に熱心に学んだそうだ。国際貿易から金融、成長論、市場投機まで、あらゆる経済現象に自然科学の光を当てて、今日の経済学の足場を築いた。MITという工学者の牙城とは相性がよかったに違いない。

▼その数学を駆使した金融工学を、晩年に激しく憎むようになった。金融危機の直後に「悪魔的でフランケンシュタインのような怪物」と語っている。生き物のような経済の正体に迫ろうとした教授は、自ら育てた子供に裏切られた気持ちで去っていったのではないか。知の巨人が、経済学界に残した宿題は大きい。

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