HTTP/1.1 200 OK Date: Sun, 13 Dec 2009 21:17:05 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:週のはじめに考える 『成長戦略』という秘策:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

週のはじめに考える 『成長戦略』という秘策

2009年12月13日

 「鳩山由紀夫政権に成長戦略がない」という批判が広がっています。さて、これを実行すれば必ず成長するというような秘策はあるのでしょうか。

 景気は年明けにも二番底を迎えるという悲観論が強まっています。七〜九月期の国内総生産(GDP)も政府が当初、発表した速報値の年率4・8%増から、その後の改定値は年率1・3%増に大幅に下方修正されました。

 最初の数字が実態からかけ離れていたわけです。二〇〇八年度のGDP成長率も推計ミスが原因で実際よりも高く公表されていました。政府の仕事としては、お粗末と言わざるをえません。

 若者を直撃する不景気

 家計の実感でも、景気は上向くどころか冷えきっています。来春卒業する大学生の就職内定率は厚生労働省と文部科学省の調査で十月現在、62・5%と前年同期に比べ7・4ポイント落ち込み、調査開始以来最大の下落幅になりました。短大の女子学生に絞ってみると、29・0%という厳しさです。

 まさに「大学は出たけれど、仕事は見つからず」の再来です。これでは学生ならずとも親からも「景気をなんとかしてくれ」と悲鳴が上がるのは当然でしょう。

 政府は〇九年度第二次補正予算を決めましたが、どうも旧来型を脱し切れていない。中長期の経済成長をどう実現していくか、展望が見えないのです。

 そこから「成長戦略を」という話になるのですが、この議論には注意が必要です。根本のところから考えねばなりません。

 そもそも「この戦略を実行すれば、いつどの国でも必ず成長するというような秘策はない」というのが標準的な経済学の常識です。それはアフリカが十九世紀初め以来、二百年経(た)っても経済が成長に向かって離陸しない厳しい現実を見ればあきらかでしょう。

 どこを狙い撃つべきか

 「秘策はないと分かっていながら、あるふりをして売り込むのが成長戦略」といっても過言ではない。政府、といっても政治家ではなく正確には霞が関なのですが、その官僚たちが「これが成長戦略です」と宣伝するのは、ほとんど「ダメもとで試してみる」か「やらないよりマシ」か「うまく予算がつけば天下りが増える」程度のものなのです。

 なにが成長産業になるのか、実は政府にも分からない。そう割り切ったうえで、中長期成長を実現する策がなくもない。まず労働者人口を増やす。日本は少子高齢化が進んでいるので、労働人口を増やすには高齢者や女性に仕事を増やしたり、さらには移民を受け入れる政策が考えられます。

 たしかに働いている高齢者や女性は増えつつありますが、サラリーマンの妻はどうでしょうか。配偶者控除が適用されなくなる「百三万円の壁」や社会保険の被扶養者でなくなる「百三十万円の壁」があって、パート仕事を制限する主婦はたくさんいます。

 民主党は政権公約で配偶者控除の撤廃を約束していましたが、二〇一一年度以降に先送りが決まりました。これでは主婦の働き手は抜本的に増えないでしょう。

 次に、一人当たりの生産性を高める。これが経済学者にとって「謎」の部分です。ノーベル賞を受けたクルーグマン教授も著書の中で「米国の生産性向上になにができるだろうか。なにもない」と辛辣(しんらつ)に書いています。教授によれば、できることは教育の質を高めることとか企業の研究開発を促すくらいといいます。つまり「ダメもと政策」ですね。

 では、日本はどの辺に弾を撃ってみるべきなのでしょうか。すぐ出てくるのは「日本はモノ作りが得意なのだから、製造業支援を」という主張です。

 ところが、中堅製造業経営者の話を聞くと「中国やアジアとは賃金に差がありすぎる。加えて、この円高ではとても製造業は日本でやっていけない。工場をたたむか海外に出て行くしかない」という悲痛な声が返ってきます。

 技術革新はいつどこで起きるか、分かりません。偶然の産物ですばらしい技術が生まれた例はいくつもあります。だから、果実が確実とは言えなくとも将来への投資と考えて、余力がある限り資金を投資してみる挑戦者のマインドは大事にしなければならない。

 そうはいっても、独立行政法人や政府系株式会社ばかりに資金を投入するのはごめんですが。

 サービス産業の強化を

 同時に、サービス産業にもっと目を向けるべきではないでしょうか。サービス産業はGDPと雇用の七割近くを支えています。クルーグマン教授の教科書によれば、傾向的に円高が進むのも非貿易財の生産性が低いことが根本原因です。予算の数字いじりではない骨太の論議を期待します。

 

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