時期尚早、の批判を背に、オバマ米大統領がノーベル平和賞を受賞した。「正しい戦争」を肯定しつつ、「正しい平和」の新たな構築を訴えた演説に、国際社会の共感は得られるだろうか。
「私自身の実績は取るに足らないものだ」−。オバマ氏は、過去の受賞者の名前を列挙しながらこう切り出した。「受賞に値しない」と考える米国民が七割近くにも上る厳しい世論に配慮し、精いっぱいの謙虚さを示した形だ。
今月初旬には、アフガニスタンへの米兵三万人増派を発表したばかりだ。「恐らく受賞の最大の問題は私が進行している二つの戦争の最高司令官だということだろう」。演説には胸中を去来する複雑な思いが随所ににじむ。
キーワードは「正しい戦争」だ。欧米の歴史に深く根差すテーマをたどりながら、オバマ氏は米国に流れる理想主義的理念の系譜を確認する一方で、国際秩序を武力で守り続けてきた伝統も強調。特に戦後六十年間、国際秩序の安定を担ってきたのは、米国の圧倒的な軍事力だった、と言明した。
旧ナチ政権、冷戦後のユーゴスラビア民族紛争などを例に、「平和は願望だけではまれにしか達成できない」とし、平和の維持、構築に当たっては戦争が正当化される場合がある、と述べた。
イスラム過激派のテロの背景には、その欧米の価値観に対する狂信的な抵抗がある。オバマ演説に対して、米共和党保守派の一部から評価の声が上がったのは皮肉だが、過去の政策に単純に逆戻りするようなことがあってはなるまい。
オバマ氏は、新しい時代が目指すべき「正しい平和」構築へ三つの方法を提示し、結束を訴えた。国際秩序を破る勢力に対する厳しい制裁と圧力、人権の擁護と促進、経済的欠乏からの解放だ。
それを実効性あるものにしてゆくには、核全廃、イスラムとの対話、温暖化といった大きな政策についての具体的前進が欠かせない。米ロの戦略兵器削減条約交渉の遅れ一つをとっても、米国の取り組みは十分だろうか。
黒人差別の歴史を背景に大統領に就任、米一極主義による力一辺倒の外交を転換したのはオバマ氏だ。その国際協調路線に込められたノーベル賞選考者のエールに、いま一度思いを致したい。最良の栄誉が重荷と化すような事態は、米国にとっても、国際社会にとっても得策ではない。
この記事を印刷する