鳩山由紀夫首相は2010年度予算の新たな国債発行額について、目標とした「44兆円以下」に収まらず、これを超えてもやむを得ないとの考えを示した。首相は「国民の命を守るのが政権の務め」と語り、「1円でも超えてはいけないとか、そういう議論ではない」と弁明した。
44兆円は麻生政権が09年度補正予算までに計上した発行額で、数字自体に合理的根拠はない。税収が想定より落ち込む一方、景気への一定の目配りも要る。苦し紛れで数字合わせをする意味は薄いかもしれない。だが、予算改革で鳩山首相の指導力が見えないことは深刻な問題だ。
民主党政権は無駄を徹底的に排除し、質の高い予算に組み替えることを目指したはずだ。その努力を尽くさず、「国民の命」を口実に目標棚上げを示唆するようでは、財政規律の緩みへの市場の懸念は深まる。
鳩山政権は中長期的な財政規律をどう保つかの具体的な目標を、決めないままでいる。唯一の目安だった「国債発行枠44兆円」は辛うじて努力目標にするようだが、それすら守れないとなれば、財政規律はいわば「丸腰」の状態になる。
欧州では財政赤字が膨らむギリシャやスペインで、国債格下げ懸念から長期金利が上昇している。単一通貨ユーロの傘に入り、財政赤字の水準が日本より低い国でも、金融市場が財政の悪化を突き始めた。
日本は国債の大半を国内で消化できるものの、市場が財政の持続可能性に疑いを深めれば、国債の金利は上がる。その危険性は内閣府が11日に発表した「ミニ白書」も認めている。国債の利率が上がると財政をさらに圧迫し、設備投資の借り入れや住宅ローンなどの長期金利上昇によって実体経済にも打撃となる。
09年度の国の一般会計税収は36.9兆円と四半世紀ぶりの低水準に落ち込む見通しだ。国債発行額は合計で53.5兆円と税収を大きく上回り、予算規模の5割を超す。
10年度も税収低迷は続き、歳出の概算要求は事項要求を含めて97兆円を超す。「事業仕分け」などでも6900億円の支出しか削れず、枝葉を刈っただけ。歳出と歳入の両面で財政規律を保つ見取り図がないから、予算の抜本改革も進まない。
巨額の財政出動をした米オバマ政権は「13年までの4年間で財政赤字を半減させる」と目標を明示した。緊急経済対策では「中期財政フレーム」を来年前半につくるというが、いかにも遅い。鳩山政権は中期目標の策定を急ぎ、市場に明確なメッセージを発すべきだ。