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天声人語

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2009年12月12日(土)付

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 詩人の三好達治の思い出を井伏鱒二が書いている。一緒に講演に出かけた先々で、三好は校歌の作詞を頼まれたが、そこでは固辞した。理由がまじめだった。「僕が校歌を作って、このさき心中でもしたら、その学校の生徒は散々だ」▼校歌とノーベル賞が同じにはならないが、オバマ大統領は、本心は平和賞を断りたかったかも知れない。先の見えない「戦争」を二つも抱えながらの受賞である。このさき、何が起きるかわからない▼栄誉というより重い十字架だろう。アフガンやイラクで毎日人が死んでいる。核兵器廃絶でも、実績を上げたのではなく、いわば希望の先買いだ。受賞のスピーチで、「戦時の大統領」は理念と現実のはざまで慎重に言葉をつないだ▼「暴力は平和をもたらさない」というキング牧師の言葉を援用した。その一方で、平和のための「正しい戦争」があると説いた。ヒトラーとの戦いをたとえにしたが、取り扱いの難しい言葉である▼「良い戦争も悪い平和もあったためしがない」と言ったのは、アメリカ独立の父のひとりフランクリンだった。だからというべきか、戦争の歴史は、戦争を正当化する歴史でもあった。古今東西、百の国に百の「正しい戦争」があったことを、そのスピーチに思い出す▼三好の逸話ではないが、今後のオバマ氏いかんでは平和賞も深い傷を負う。それを承知でノーベル賞委員会は火中の栗を拾い、大統領も応えたのだろう。氏のうたう「核兵器のない世界」ははるかに遠いが、冷笑という風で灯を吹き消したくはない。

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