イラクの首都バグダッドで再び大規模テロが起き、約百三十人が死亡した。来年三月の議会選の妨害を狙い、米軍撤退の手薄さを突いた感じだ。テロに屈しない強い意志と治安確立が急がれる。
財務省などの窓ガラスは吹っ飛び、車の残骸(ざんがい)とがれきの山に埋まる血みどろな人たち。一帯は戦争当時に戻ったかのようだった。
二〇〇六年夏に三千人を超えていたイラクでの死者は、年々急減していた。オバマ米大統領は治安が改善されたとして、都市部の駐留米軍を今年六月から撤退、戦闘部隊十万人も来年八月までにイラクから撤退、アフガニスタンへ増強の方針だ。
ところが首都などでのテロは頻発。それも警備最厳重の中枢地区が、八月、十月(犠牲者計二百八十人)に続き、今回で三度にわたって大きな被害に遭った。
バグダッドには各所に検問所が設けられ、所持品検査を受けなければ中心部に近づけない。このため“身内”に、テロ犯の協力者がいるとの疑いが強い。現に八月テロの容疑者の一人が「治安当局者を買収した」と供述したという。イラク政府は国際テロ組織アルカイダ系武装勢力が旧政権関係者の協力で実行したとみている。
イラクでは先の戦争中に発足した現政権下で初の国民議会選挙が来年三月に行われる。区割りと議員定数をめぐってはイスラム教シーア派、スンニ派、クルド族の三者間で大もめしたが、人口の多いスンニ派議席を増やした選挙法が六日に成立。「三月七日投票」が決まったばかりだ。
その直後のテロで、マリキ首相(シーア派)は「選挙を邪魔する卑劣な企て」と非難、国民には団結を呼び掛けた。治安対策の強化が急務だが、新国家再建に向けてはテロに屈せぬ強い意志と国民の団結が何より求められる。政権を握るシーア派最大会派「統一イラク同盟」は反米サドル師派と親米マリキ首相派に分裂している。
テロ直後、米政府は「撤退計画に影響はない」としたが、治安能力への不安が民間で強まればテロ勢力の思うつぼだ。
テロの報道は全中東に即時に流れる。最近、テロ頻発のパキスタンでも不安と不信は生まれつつある。そういうこの地域全体を見た場合、米軍の都市部撤退の弱点を広く印象づけることになれば、イラクだけでなく、米軍増派が決まったアフガニスタンにも悪影響は波及しかねない。今こそイラク政府と米軍の連携が一層必要だ。
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