河村たかし名古屋市長の公約だった市民税の減税条例案が市議会で修正、可決された。原案無修正を求める市長との調整は不可欠ではあるが、10%減税へと踏み出した全国初の試みを評価したい。
「税金の無駄遣い排除」と国も地方自治体も叫んではいるが、住民の利益につながらねば抽象論にすぎない。目に見える形で還元してこそ意味があるはずだ。
名古屋市も他自治体同様の財政難である。にもかかわらず減税を打ち出すのは並大抵なことではない。財源は、人事委員会勧告による職員の給与削減分七十億円のほか、百四十七億円を目標に経費を圧縮させてひねり出すという。
どこにメスを入れるか頭を悩ませることになるが、既に検討に入った市幹部は「こんな所も、と気づいた部分もある」と漏らす。まず減税を約束し、必死に探したからこそ可能になったといえる。
議会も減税には賛意を示したことで、来年度からの実施はほぼ確実となった。しかし、可決されたのは河村市長の原案でなく、野党の自民と公明が出した修正案だ。
一律10%減税の河村原案に対し、修正案は全体ではほぼ同じ10%減税でも、納税者が一律に払う年三千円の均等割分の減税を一律10%の三百円から二千九百円に引き上げ、その分、所得額に比例する所得割部分の減税率を引き下げる。所得の低い市民により減税の恩恵があるよう求めたものだ。
河村市長は「減税と福祉は別。非課税世帯を含め福祉政策は別に行う」と、議会に審議を差し戻す再議に付す意向を示している。修正案が再議でも可決されるには、三分の二の賛成が必要だが、与党の民主は原案の方に賛成しているため難しい。そうなれば再び原案に戻り、審議することになる。
しかし、これからはいかに意味ある減税にするかだ。市長、議会とも市民の立場から一層議論を深めてほしい。
手法は違うが、東京都杉並区も来年度から一般会計予算のほぼ一割にあたる約百五十億円を基金として積み立て、二〇二〇年度から運用益で区民税を一律10%程度減らす制度を目指す。
「少しでもいいサービスを少しでも安くと、頑張るのは民間なら当たり前」と河村市長は口にする。その当たり前がいかに実現しなかったか、多くの自治体では住民が一番知っている。手法はいろいろあろうが、名古屋の実験に学ぶべきところは大いにあるはずだ。
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