「略」というのは不思議な文字だ。策略や略取のように「はかりごと」を指すかと思えば省略だ略歴だと「はぶく」の意味でも盛んに使われる。刑事事件では面倒な審理を一切はぶくのが略式起訴だから、ときに運命を分ける略の字だ。
▼西松建設による一連の献金問題は、はかりごとを表す略の字でいろいろ表せよう。ところが東京地検は二階俊博・前経済産業相の政策秘書の処分のほうも略で済ませた。ただちに略式命令が出て一件落着である。似かよった構図のなかで、民主党の小沢一郎幹事長の秘書を逮捕したときの勢いはどうしたのだろう。
▼これではいささか均衡を欠く。という声をおもんぱかってかどうか、検察は鳩山由紀夫首相をめぐる献金疑惑でもことを荒立てない方針らしい。巨額の「子ども手当」を渡していたというご母堂からも、首相本人からも事情聴取などはしないという。どれもこれもこんなに捜査を略すのが検察の伝統ではあるまい。
▼小沢氏の秘書逮捕を世間からさまざまに論じられて以来、揺れる政局も気にして腰が据わらないのだろうか。こんどの始末が、あちこちの疑惑追及を手控えるための計略だと言われないよう願いたい。略式起訴といえば金丸信・元自民党副総裁の事件を思い出す。検察へのごうごうたる非難を招いた「略」だった。