HTTP/1.1 200 OK Date: Wed, 09 Dec 2009 21:17:16 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:改名すること実に十六回。落語家の古今亭志ん生は売れない時代…:社説・コラム(TOKYO Web)
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【コラム】

筆洗

2009年12月9日

 改名すること実に十六回。落語家の古今亭志ん生は売れない時代が長く、極貧生活を夫人が内職で支えてきた。昭和の初めに、約八年間過ごした東京・業平橋の「なめくじ長屋」での暮らしぶりは、今では想像できない▼湿地帯に立っていた長屋だけに、連中はどこからか家の中に入ってくる。「出るの出ねえのなんて、そんな生やさしいものじゃァありません。なにしろ、家ン中の壁なんてえものは、なめくじが這(は)って歩いたあとが、銀色に光りかがやいている」(『びんぼう自慢』)▼大きいのは約一五センチ。塩をかけてもびくともしない。「背中に黒い筋かなんか走っているのが、ふんぞりかえって歩いている。きっとなめくじの中でも親分衆かいい兄ィ分なんでしょうねえ」▼約八十年後、長屋があった場所の目と鼻の先に「東京スカイツリー」が建設中だ。すでに高さは二百三十メートルを超えた。完成時は世界一の六百三十四メートルとなる。なめくじ長屋で育った長女美濃部美津子さん(85)は「うそみたいだね」とその変わりように驚く▼長屋の住人は情が厚く助け合って生きてきた。貧乏でも他人をうらやましいと思ったことはない。「今でもああいうところがあれば、引っ越していくよ」と美津子さん▼「貧乏はするもんじゃありません。味わうものですな」。貧乏暮らしも、すべて芸の肥やしにした名人らしい言葉だ。

 

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