大方の予想を覆す最高裁の差し戻し判決だった。
経営破綻し一時国有化された旧日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)の粉飾決算事件で最高裁は、旧経営陣3人を有罪とする原判決を破棄した。ここまでは、旧日本長期信用銀行の粉飾決算事件と同じだが、自ら無罪を言い渡した長銀事件と異なり、今回最高裁は東京高裁に審理のやり直しを命じた。
両行の刑事裁判の焦点は、不良債権の早期処理を促す目的で1997年に旧大蔵省が出した決算経理基準・資産査定通達を98年3月期決算に適用しなかったことが、不良債権隠しの粉飾になるか否かだった。
2件とも一審、二審は、通達が出る以前の緩い査定基準を適用して不良債権を少なく見積もったのは違法な粉飾決算だと判断した。ところが昨年7月の長銀事件最高裁判決は下級審の認定をひっくり返して、97年の新基準・通達だけでなく従前の査定基準も「公正な会計慣行」の一つと認め、逆転無罪とした。
同じ法解釈に基づきながら、最高裁が日債銀の3被告を無罪にしなかったのは、従前の基準でも回収不能と査定されるはずの貸出債権を「償却・引き当ての必要なし」と分類して決算を粉飾した疑いが残る、とみたからだ。いわゆる「有罪方向での差し戻し」に思える。
両行の決算は同じ基準を適用していても、査定をその基準に沿って適切に行ったかどうかに関して大きな差があると最高裁は断じたわけで、そこが被告人の明暗を分けた。
バブル崩壊によって破綻した両行に公的資金を入れるためには経営陣の責任追及が条件になっていた。不良債権を積み上げた歴代経営者や、金融政策・行政のかじ取りをしてきた大蔵省、日本銀行、政治家らの責任が問われないまま“最後”の経営者だけが刑事罰を求められるのが不公平であるのは間違いない。
最高裁が下級審の有罪判決の根拠になる法解釈を否定した背景には、そうした不公平感を正す狙いもあったのではないか。ただし、不公平な扱いによって罪に問われたとばかりはいえない、ひどい経営の逸脱も破綻の陰に隠れていた。日債銀事件の判決はそう指摘しているようだ。