北朝鮮がデノミネーション(通貨単位の切り下げ)を実施した。新旧通貨の交換額を制限したため国民は大混乱しているとの情報もある。体制そのものが揺らぐ可能性もあり、目が離せない。
北朝鮮は先月三十日、新しい紙幣と硬貨計十四種類を発行した。新、旧通貨の交換比率は一対百、銀行預金は一対十とするが、一週間の期限を過ぎたら交換には応じないという厳しい措置だ。
北朝鮮の公式報道はまだないが、韓国のメディアや市民団体によれば、現金の交換額が十万ウォン、または十五万ウォンに制限され、住民は「それ以上の現金が紙くずになる」と恐れている。
通貨交換は予告なしに有線放送で伝えられた、住民が交換所に押しかけて警察が力ずくで排除した、闇市場での食品価格が跳ね上がった−。脱北者らの証言は国内の混乱を伝えている。
北朝鮮中央銀行の責任者は在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)機関紙の「朝鮮新報」の取材に対し、国内企業だけで産品を供給する能力が強まったとして「市場の役割は次第に弱まっていくだろう」と述べた。
統制を強め、市場経済は拒否すると明言したことになる。国際社会は北朝鮮に改革、開放を促しているが、今回の措置でその芽は消えたのかもしれない。
二〇〇二年七月、「経済管理改善措置」をし市場経済を一部黙認した。しかし商品は慢性的に不足して物価が高騰し、通貨を大量に発行した結果、インフレが進んだ。一方で、一部の住民は個人の商売に励み、国家が管理できない「たんす預金」の形で蓄財した。労働党や軍幹部には特権を利用し外貨をためた者も多いという。
デノミは流通通貨を強制的に回収して物価を下げる、また一部の富裕層が隠し持つ現金を紙くずにして、再び統制経済に戻そうとする試みとみられる。北朝鮮は二〇一二年を「強盛大国入りの年」と宣言しているが、経済部門は遅れており、資金や資材を国家に集中させる目的もある。
北朝鮮は核やミサイルなど軍需産業への投資が大きく、民生経済は破綻(はたん)状態だ。資材をすべて国内で調達する「自力更生」を展開しているが、精神論だけでは経済は再建できない。
六カ国協議に復帰し、核放棄の道筋を示さない限り、国際社会からの本格的な支援は難しい。
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