五日の台湾統一地方選で野党・民進党が得票率を大きく伸ばし昨春総統選の大敗以来の流れを変えた。背景には経済低迷に加え、国民党政権が中国に急接近していることへの選挙民の不安がある。
「民主主義の回復を」。叫ぶ民主進歩党の蔡英文主席。「発展と環境を両立させるのは、わが党」と熱く語る国民党の馬英九総統。
投票日前夜、最大激戦地となった北部・宜蘭県では両党党首が現地入りし、総統選さながらの舌戦が展開された。昨年五月の馬政権誕生と蔡主席の党首就任以来、初の大型選挙で政権信任と両党の将来を問う機会になったからだ。
十七の県・市長選挙では、民進党が現有三首長に加え前回選挙で国民党に奪われた宜蘭県を奪回した。国民党は現有十四県市から、無所属が当選した花連市を含む二首長を減らした。得票率は民進党が前回県・市長選の38%を45%に伸ばし国民党の48%に迫った。
県・市合併などの影響で台北、高雄など大票田の五都市は来年末に首長選が予定され、今回の選挙民は全有権者の四割にすぎない。馬総統は「得票率は理想的でない」と語るだけで敗北と認めていないがショックは隠せない。
国民党の勢いをくじいたのは今年八月、死者・行方不明者七百人以上を出した台風への対応が遅れて総統の支持率が急落したことだ。民進党も陳水扁前総統が総統機密費流用事件で九月に無期懲役判決を受けるなど不利を抱えたが、国民党は攻め切れなかった。
地方選ながら馬政権が発足以来、進めてきた急激な対中接近政策も問われた。対中直行便実現やビジネスの規制緩和で、中国の観光客は年百万人規模に達し、中国への輸出は台湾の輸出の四割を占める最大の貿易相手になった。
しかし、対中依存の高まりに社会の不安は強まっており各種世論調査で統一を望まず現状維持を願う人は八割以上を占めている。
中台は十二月下旬に共同市場形成に向け貿易自由化交渉を始める。馬政権は「統一せず、独立せず」と対中政策を語るが、選挙結果にこたえ中台関係の将来像をもっと具体化してほしい。
独立綱領を掲げる民進党も政権に復帰したら、台湾が付き合わずにはいられない中国とどのような関係を築いていくのか不明確だ。
中台関係の将来は台湾のみならず東アジア全体の安全保障をも左右し、この地域の住民にとって共通の関心事でもある。
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