10年来のデフレ基調を覆すのに、財政・金融政策による需要喚起だけで十分とはいえないだろう。
日本銀行が10兆円の短期資金供給策を決めたのに続き、政府は今年度2回目の予算補正による歳出追加を含む経済対策を検討している。対策の中身は雇用調整助成金の増額、中小企業への緊急保証制度延長など後ろ向きのものが多いが、内需の落ち込みを抑える効果は否定できない。
日銀は長期国債の買い入れ増額や必要なら量的金融緩和策の再実施を含め政府に協力すべきである。
財政金融策と並行して
とはいえ、物価が下がり続けるデフレはきのうきょう始まった話ではない。昨年秋の金融危機後から物価の下落幅が拡大しているのは事実だが、この10年、物価は下落ないし極めて小幅な上昇にとどまり、デフレ基調が続いている。
その背景には、多くの産業で需要が頭打ちになったこと、低賃金国の中国との競争が激しさを増し、日本の賃金や物価が影響を受けていること、さらに人口減少や高齢化による消費の減退、公共事業予算削減による建設業界の供給過剰など様々な構造的要因がある。
そうであれば短期的な需要政策と同時に、これら根の深い問題に取り組むべきだ。積極財政を繰り返した結果、公的債務が膨らんで長期金利が敏感に反応し始めており、大胆な財政活用を続けるのは難しい。
政府は近く経済成長戦略をまとめる。経済環境の変化に沿った様々な構造改革の確かな道筋を示し、企業の設備投資や家計の消費を促すとともに、産業界が新しい分野で競争力を持てるようにしたい。そうした改革を肉付けするため、歳出改革や、税制・規制改革、温暖化対策などを果断に進めてほしい。
政府が検討中の成長戦略は「子ども」「環境」「雇用」の3分野を柱にする。それは理解できるが、既存の業界や団体の反発を恐れずに、抜本的で体系立った政策をまとめることが何より肝心である。
例えば子ども手当は子どもがいる家庭に余裕を与えるとともに、子どもの数を増やし将来の成長を促す。その効果を高めるため保育所の増加につながる規制改革や、幼稚園と保育所の一元化、女性が働く環境の改善も進めたい。認可保育所の関係者や、幼稚園を所管する文部科学省と保育所所管の厚生労働省に対する政治家の説得がカギとなる。
雇用を増やすため、仕事が減った建設業者の農業への業種転換を促す政策もテーマになっている。可能性を秘めているが、民主党が掲げる農家への戸別所得補償は農業の規模拡大を進める発想に乏しい。事業として成り立つかどうか読めないのでは建設業者もためらうだろう。
雇用に関して政府は利点より弊害のほうが大きい政策に動いている。製造業への派遣や、仕事があるときにだけ労働契約を結ぶ登録型派遣を一部の例外を除き禁止する法案を国会に提出する方針だ。一見、派遣労働者を守るようだが、企業が国内より賃金の安い海外工場での生産の割合を増やしたりすれば働く側にとって元も子もない。正社員との給与格差の是正などは必要だが、多様な働き方を否定するのは的外れだ。
環境分野は将来、有望だが、ここでも新制度の導入や改革が欠かせない。まず温暖化ガスの排出削減に効果があって公平な排出量取引制度の設計。さらに太陽光発電などによる電気を効率よく安定的に供給するための電力自由化……など反対も多い問題に踏み込む必要がある。
成長戦略で政治決断を
このほか、医療、教育、介護、運輸分野などでの規制緩和や、官業の民間への開放は設備投資を含む内需を盛り上げる。成長するアジア向けの輸出を伸ばすには、農業市場の開放などを前提に、すでに結んだ経済連携協定を見直して相手国の工業品関税をもっと下げてもらうことも考えてよいのではないか。
中高年の消費者に安心感を与えるため、年金・医療制度改革の検討も着実に進めるべきである。
予算編成では、事業仕分けの成果も参考に優先度の低い予算を削り、より意味のある分野に振り替えることが大切。また、この秋にみられたような国債金利の上昇を防ぐために、中長期的な財政健全化の目標ぐらいは早く決めるべきである。
財政の大盤振る舞いをしにくくなったこともあり、これからの経済運営は「狭い道」である。だが事業仕分けに国民の多くが喝采を送ったように、理不尽なことを改めるのを有権者は支持する。それに民主党は特定業界・団体とのしがらみが薄い。その利点を大胆な政治決断にいかして、時代に合わなくなった制度や規制、政策を改め、中長期的な成長への道筋をつけてほしいものだ。
それこそが曲がり角に来た日本経済を救う本当のデフレ対策である。