連合は二〇一〇年春闘方針を決めた。大手労組はベースアップ(ベア)要求を見送る一方、パート労働者らの待遇改善を進めるという。雇用維持を優先するあまり春闘の本質を見失っていないか。
景気の二番底不安があるためか政権交代で“国民労組”となったせいか、古賀伸明会長が就任後初めて率いる来春闘の方針は今年と違ってかなり控えめである。
最低限実現すべき課題として取り上げたのは(1)賃金カーブ維持分(定期昇給)の確保(2)非正規労働者を含めた全労働者を対象とする待遇改善(3)企業内最低賃金協定の締結拡大(4)総実労働時間の短縮などで雇用の安定と創出を図る−ことである。
賃上げでは統一的なベア要求を見送ることにした。ただし、定昇制度がない中小企業労働者のために月額五千円の賃上げ要求額を明示することになった。
また初めて本格的に非正規労働者の待遇改善に取り組むことも決めた。パート労働者の時間給を三十円程度引き上げるとともに「誰もが時給千円」を目指す。非正規から正社員への転換制度の促進なども取り上げている。
こうした方針は一見、妥当に映る。日本経済も企業経営も当分は厳しい環境が続く。今春闘では敗北した苦い経験もある。強硬な方針を決めても現場が納得しなければ春闘は空中分解してしまう−。そんな判断が見え隠れする。
だが、これで春闘を闘えるのか。とくにベア要求断念は中堅・中小企業の春闘に影響が大きい。結局は労働者全体の賃金水準引き下げを招く可能性が大きい。
連合の運動方針では過去の景気拡大期に労働者への成果配分が不十分だったことや、この十年間で正規雇用は約三百七十万人減少する一方、非正規は六百八十万人も増加するなど日本の雇用構造のゆがみを指摘している。
年収二百万円以下の働く貧困層(ワーキングプア)の増加や生活保護世帯急増など「日本社会は底割れしている」とも糾弾する。
そんな労働者全体の怒りをぶつけて解消していく重要な機会が、春闘だ。連合は政治力に過度に頼るべきではない。雇用の現場を把握し組合員の結束と信頼を高めることが大切だ。
来春闘は来年一月、日本経団連が経営側の対処方針を公表して本格化する。春闘の形骸(けいがい)化は指摘されているが労使協議の重要性はさらに高まっている。連合は闘争態勢をしっかりと固めるべきだ。
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