HTTP/1.1 200 OK Date: Thu, 03 Dec 2009 20:17:20 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:真夏の青い空に、三つの白い落下傘がゆらゆらと降りていくのを…:社説・コラム(TOKYO Web)
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【コラム】

筆洗

2009年12月3日

 真夏の青い空に、三つの白い落下傘がゆらゆらと降りていくのを少年は見ていた。「変なものが落ちてくるぞ」。仲間に伝えるために小屋に戻ると、外は閃光(せんこう)に包まれ、巨大な爆発音が響き渡った▼きのう七十九歳で亡くなった平山郁夫さんは一九四五年八月六日、広島の陸軍施設に勤労動員中に被爆した。目撃したのは原爆の威力を観測する機材だった▼両足をもがれた人、眼球が飛び出して垂れ下がっている人…。惨状の中で生き残ったのは、偶然にすぎない。十五歳の時の被爆体験が、日本画壇の巨匠となる平山さんの原点だった(『日本の心を語る』)▼原爆症が悪化し死の恐怖と向き合いながら、祈るような気持ちで描き上げたのが玄奘三蔵をイメージした五九年の「仏教伝来」だった。以降、シルクロードをテーマにした作品を次々と発表する▼平山さんにも、自分の才能が信じられず、創作に挫折し、焦りを感じた時期があったという。生活苦とも闘ってきた。そんな時に、自らに言い聞かせたのは「才能とは持続することである」という言葉だ▼アンコールワットやバーミヤンなどの遺跡を保存する活動にも尽力してきた。被爆体験と平和への祈りが創作の原動力だった。描き続けることが生き残った者の責任だと語ってきたその人は、十代半ばから背負ってきた重い荷をようやく下ろせたのかもしれない。

 

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