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12月3日付 編集手帳

 窓に息を吹きかけ、指で絵を描くのは幼子だけとは限らない。描きたい、描く、という衝動が指を絵筆に変えたのだろう。平山郁夫さんは新幹線の窓に不動明王を描いている◆1977年(昭和52年)8月、広島市で原爆忌の供養式に参列して東京に帰るときのことで、当時47歳である。その2年後に発表された『広島生変図』では町を焼き尽くす業火の渦巻くなかに、憤怒の形相も荒々しい不動明王が不死鳥のように立つ◆15歳で被爆し、以後20年間、広島に帰らなかった。絵の題材に困ったときも、原爆は描かなかった。〈生き残った私に後ろめたさがあったのだろう〉と、本紙連載「自作を語る」にある◆被爆体験が平和の祈りとなって新幹線車中の指先からほとばしるまで32年という歳月を要したことが、その人の心身が背負いつづけた苦しみの重さを物語る。唐僧玄奘を描いた『仏教伝来』をはじめとしてシルクロードや仏教を題材に、雄大にして叙情あふれる数々の作品を残し、平山さんが79歳で亡くなった◆画集をひらく。平山さんの色と言っていいだろう。月明かりの沙漠(さばく)の夜空、群青が目にしみる。

2009年12月3日01時13分  読売新聞)
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