HTTP/1.1 200 OK Date: Wed, 02 Dec 2009 20:16:25 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:ある日突然、外出するユダヤ人が胸に黄色い星の印を着けるよう…:社説・コラム(TOKYO Web)
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【コラム】

筆洗

2009年12月2日

 ある日突然、外出するユダヤ人が胸に黄色い星の印を着けるようになった。一九四一年、留学先のドイツで吉野文六さん(91)はユダヤ人が排斥されていく状況を目撃していた▼「ヒトラーから独ソ戦争が始まると聞いた。驚くな」と大島浩大使から告げられたこともある。四五年五月のベルリン陥落では、日本大使館に押し寄せたソ連の兵士に機関銃を突きつけられた。まさに、歴史の生き証人である▼外務審議官、旧西独大使などを務めた吉野さんがきのう、東京地裁の法廷で重大な証言をした。七二年の沖縄返還に伴い、日米両政府が交わしたとされる密約文書の開示をめぐる行政訴訟の弁論で、密約の存在を認めたのだ▼毎日新聞記者だった西山太吉さん(78)が国家公務員法違反罪に問われた公判や国会で、アメリカ局長として返還交渉を担当した吉野さんは密約を強く否定していたのだから百八十度の転換だ▼証言後の記者会見で、印象に残ったのは「過去を忘却したり歴史を歪曲(わいきょく)しようとすると国民のマイナスになることが大きい」という言葉だ。秘密交渉も一定期間を過ぎれば、原則公開すべきだとの信念が証言を後押ししたのだろうか▼事件で筆を折った西山さんは故郷に戻り、「精神的な牢獄(ろうごく)」の日々を送った。長い沈黙を経て再び始めた国との闘い。密約外交を突き崩したのはジャーナリストの執念だった。

 

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