10年間は絵で金をもらうな。古典の研究を怠るな。一流のものだけを見ろ。模写を続けろ。いい道具だけ使え――。東京美術学校(現東京芸大)の日本画予科に合格した16歳の平山郁夫少年に、著名な彫金家だった大伯父の清水南山はこう訓戒を垂れたという。
▼40年以上たって本紙の「私の履歴書」にそう書いている。平山さんは長く訓戒を肝に銘じていたのだ。その結果、シルクロードの静謐(せいひつ)な風景を誰でも思い浮かべられるほど画業は知られることになったが、平山さんを平山さんたらしめた真面目(しんめんもく)は、一画家にとどまらぬ大きさにこそあった。そうともいえるだろう。
▼国内外の文化財保護、中国をはじめ各国との友好活動、幅広い交友。あるいは教育者として東京芸大学長に2度就いたことでもいい。挙げていけばきりがない。シルクロードが一番似合ってはいたけれど、平山郁夫という器には、創作活動からは少々はみ出す何を盛っても、見栄えがした。
▼ライフワークの「大唐西域壁画」を昨秋、奈良・薬師寺で見た。7世紀の唐の名僧、玄奘三蔵が国禁を犯してインドへ求道の旅をしたという事績をたどる大壁画を前に、思いは1400年近い昔へ、そして西域へと流れていくように感じた。時代も地域も超えていく。それは、平山さんの生涯そのものでもあった。