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アフガン新戦略―増派だけで安定はない

 オバマ米大統領が、新たなアフガニスタン戦略を発表した。米軍3万人を増派し、アフガン治安部隊の育成などにあたる。2011年7月から米軍は撤退を始めるという内容だ。

 タリバーン政権の打倒から8年近い。だが、米兵の犠牲は増えるばかりで、戦費も巨額に膨れあがっている。かつてのベトナム戦争のような泥沼にはまるのではないか。そんな懸念が米世論に根強い中での決断だ。政権の命運がかかっていると言っても過言ではあるまい。

 増派の一方で撤退開始の時期を明示したのは、いつまでも戦争を続けられないという判断からだ。カルザイ政権に自立を促す狙いもある。

 ブッシュ前政権のイラク戦争に反対したオバマ大統領だが、アフガニスタンについては「必要な戦争だ」と強調してきた。タリバーン勢力が再び政権を握って国際テロの拠点になれば、米国や国際社会の安全が脅かされる。そんな危機感にかられての決断だったに違いない。

 今回の増派で、アフガン駐留の米軍は10万人規模に達することになる。兵力が増えれば米兵だけでなく、巻き添えになるアフガン人の犠牲が増える危険も大きくなる。それが反米感情を高め、タリバーン勢力の伸長を招くという悪循環も覚悟する必要がある。

 新戦略の成否のカギを握るのは、アフガン国軍や警察の育成である。2期目のカルザイ政権が、テロ勢力の復活を阻止するだけの統治能力を備え、治安を安定させることができるかどうか、という問題でもある。

 だが、これまでの実績を見る限り、悲観的にならざるを得ない。政府の汚職や麻薬の栽培、密輸はひどくなるばかりだ。現地政府が腐敗していては、いくら精鋭部隊を投入しても、巨額の民生支援を振り向けても徒労に終わる。それが8年間の教訓だ。

 アフガン国民の多くは、いまだに水や電気すら十分に確保できず、暮らしは一向に改善されていない。失望感の広がりが、タリバーン勢力の復活の根底にあるのではないか。

 アフガンのタリバーン勢力がすべて過激主義ではないし、国際テロリストであるわけでもない。交渉を通じて穏健派を取り込み、民族や宗派を超えた幅広い和解を実現していくための現政権の真剣な努力が欠かせない。

 軍事力だけでそれを達成するのはとうてい不可能だ。民生面での国際的な支援を広げ、和解や国家再建の取り組みを支えていかねばならない。その点で、今後5年間で50億ドルの拠出を表明した日本政府は、大きな役割を果たせるはずだ。

 今度こそ、イスラム諸国を含めて、国際的な支援の枠組みをしっかりと組み直したい。

住民訴訟―議会が骨抜き、許されぬ

 税金の使い道をめぐり、首長が自治体に損害を与えたという住民の訴えを裁判所が認め、首長に損害賠償を請求するよう自治体に命じた。ところが、賠償請求する権利の放棄を議会が議決し、せっかくの住民勝訴の判決が帳消しにされる。

 そうした議会の「裏技」によって、住民訴訟の勝訴が骨抜きにされる例が、全国で相次いでいる。

 そんな中、神戸市の補助金をめぐる住民訴訟で大阪高裁は、矢田立郎市長への賠償請求を放棄した市議会の議決を無効とし、約55億円を市長らに請求するよう市に命じた。「請求権放棄」の議決を無効とする初の司法判断だ。

 この訴訟は、神戸市が19の外郭団体に派遣した職員の人件費を補助金名目で支出したことの是非を争った。

 そうした職員の人件費を自治体が直接支給することは、公益法人等派遣法が禁じている。天下りの温床になりかねない外郭団体への職員派遣のルールを定めた法律で、派遣先の仕事が自治体の業務に密接に関連する場合にだけ例外的に直接支給を認めている。

 一審の神戸地裁は「派遣先の仕事の公益性について市は実質的に全く審査しておらず、支出は違法」と、住民の訴えを認め、補助金を市長と団体から返還させるよう市に命じた。

 神戸市は控訴したうえ、職員派遣についての条例改正案を市議会に提案した。そこに「違法」な人件費を市長らに請求する権利の放棄も盛り込んだ。人件費の返還で破綻(はたん)する団体が続出するうえ、市長に大きな負担をかけるという理由だ。それを市議会は賛成多数で可決してしまった。

 大阪高裁判決はこの議決について「市長の違法行為を放置し、是正の機会を放棄するに等しく、住民訴訟制度を根底から否定するもので、議決権の乱用にあたる」と厳しく批判した。市民感覚にそった妥当な判断だ。

 住民訴訟の勝訴が、いともたやすくほごにされてしまう背景に、02年の地方自治法の改正がある。

 以前は住民が首長を直接訴えることができたが、この改正で、まず自治体を被告にして訴え、自治体が首長に賠償を求める仕組みに変わった。個人として訴えられると首長の精神的、経済的な負担が重すぎるというのが法改正の趣旨だ。

 これを機に、自治体の意思決定機関である議会が首長となれあい、制度を骨抜きにすることが横行し始めた。

 本来は議会こそが住民代表として、行政の腐敗や無駄遣いを厳しく監視しなければならないのは当然だ。

 その機能が働かないとき、住民自らが行政の違法行為を是正する手段として、住民訴訟は最後の頼みの綱である。地方自治法を再び改正して抜け道をふさぐ手立てを考えるべきだ。

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