中国と欧州連合(EU)が南京で開いた定例の首脳会議で、EU側は「秩序だった緩やかな人民元の切り上げ」を求めた。最近の人民元の下落は世界経済に圧力をもたらしており、EU側の要請は当然である。国際金融市場への新たな衝撃とならないよう配慮しつつ、中国政府は人民元改革を着実に進めてほしい。
欧州中央銀行(ECB)のトリシェ総裁らユーロ圏通貨当局の首脳は29日、温家宝首相や周小川・中国人民銀行(中央銀行)総裁らとの会議で、人民元の切り上げは「中国自身と世界経済の利益」と表明した。
11月中旬に訪中した米国のオバマ大統領も胡錦濤国家主席らとの会談で人民元の切り上げを促していた。トリシェ総裁らはオバマ大統領よりも強い姿勢を示したとしている。国際通貨基金(IMF)のストロスカーン専務理事も人民元の切り上げが必要と公言しており、人民元は世界的な課題になった観がある。
EU側には最近の米ドル安で、ドルと事実上連動している人民元もユーロに対し下落していることへの懸念がある。中国から欧州への輸出攻勢が強まるだけでなく、世界市場で欧州製品が中国製品に太刀打ちできなくなりつつある、との不安だ。
これは欧州に限らず他の多くの国々にも共通する。ブラジルなど途上国からも反発の声が出始めており、中国政府は国際社会の声にしっかりと耳を傾けてもらいたい。
ただ、ドル不安が漂う中で人民元を切り上げれば、すでに通貨高圧力を受けている円や他のアジア通貨が新たな投機に見舞われドルが暴落する可能性も否定できない。
トリシェ総裁らに対し温首相は人民元相場の安定を重視する姿勢と同時に「人民元の柔軟性を高める」方針も示した。世界経済の不均衡を是正し中国経済が内需主導の成長に転換するには人民元改革は避けて通れない。慎重にタイミングを見計らって実行に移すべきである。
30日の中国・EU首脳会議では地球温暖化対策も大きなテーマで、双方が署名した5件の文書の大半は環境に絡んだ内容となった。中国との環境協力には米国のオバマ政権も力を入れている。この面で鳩山政権は後手に回っていないだろうか。