トヨタ自動車の米国フロアマット問題は、対象車の部品をトヨタが無償交換することで決着した。車に最も求められるのは「安全」だ。自動車メーカーには、その原点を見つめ直してほしい。
今回の問題は、八月末に米カリフォルニア州で起きたレクサス車の暴走による一家四人死亡事故をきっかけに浮上した。アクセルのペダルがフロアマットに引っ掛かり、踏み込んだままの状態になって暴走した。
トヨタは、通常は想定していない厚手のフロアマットの使用が原因として、車両の構造的欠陥ではないと主張。一方、米運輸省はアクセルペダルと床の間のすき間が狭い点を欠陥とみた。一応の決着はみたものの、トヨタが今回の措置を希望者を対象とした自主改修、いわばサービスと位置付けているのに対し、米当局は「リコール」(無料の回収・修理)とし、両者の認識には違いがある。
トヨタが、欠陥はないとしながらも部品を交換する背景には、問題が長期化してブランドイメージが傷付くことに対する懸念があったとみられる。米当局からみれば、トヨタが問題となった部品以外にアクセルの制御システムの改良まで踏み込んだことは評価できる。トヨタに厳しい論調だった米メディアも「思い切った措置」などと好意的な反応をみせた。
トヨタには今後、日本を含め、米国以外の国の同車種のユーザーにもしっかりした説明をしてほしい。それが世界ブランドの責任である。
今回の問題は出口がみえたが、これを契機に、車は第一に安全であるべきだという当たり前のことを再確認したい。最近でこそ「環境」が自動車開発のキーワードになっている。だが、車の誕生時から「安全」はメーカーにとって至上命令だったはずだ。
国内での一九六九年度からの車の年間リコール台数をみると、軽自動車、二輪車なども含めた国産車、輸入車の合計で二〇〇一年度に初めて三百万台を超えた後、〇三年度以降は四百二十万〜七百五十万台で推移している。〇八年度は五百三十五万台。人の命にかかわる車に、これだけの欠陥がある状況は見逃せない。
電子部品が増えたことがリコール増加の一因になっているとの指摘もある。ただ、不具合の発生は電子部品に限ってはいない。自動車メーカーには、設計から生産過程に至るまで厳しい安全対策と品質管理の徹底を求めたい。
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