HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 17880 Content-Type: text/html ETag: "15c3a1-45d8-65add8c0" Cache-Control: max-age=5 Expires: Sun, 29 Nov 2009 00:21:12 GMT Date: Sun, 29 Nov 2009 00:21:07 GMT Connection: close asahi.com(朝日新聞社):天声人語
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天声人語

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2009年11月29日(日)付

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 そこにあるのに、それを表す言葉がないために認識されないものがある。裏を返せば、見過ごされていたものも、名称が与えられることで顕在化する。そうした例の一つが「里山」だろう。人と自然が共存する、日本の原風景ともいえるたたずまいが、この一語で広く認識されるようになった▼97歳で亡くなった京大名誉教授の四手井(しでい)綱英さんはその語の生みの親だった。1960年代に言い出した。「山里をひっくり返しただけですが、これがぴったりきた」。のちに広辞苑にも載り、言葉とともに里山の豊かさは世に知られていく▼京大に赴任した54年には、それまで「造林学」だった講座を「森林生態学」に改めた。造林という言葉は人が管理して育てる色合いが濃い。変更は、木々と多様な生き物を主役にして、人間は脇役に引くという意識の転換でもあった▼先週はもうひとり、京大名誉教授の訃報(ふほう)を聞いた。動物行動学の日高敏隆さんは享年79。やはり人間を万物のモノサシとして疑わない風潮に異をはさんできた。柔らかいエッセーに自然界の見方を教わった人は少なくないだろう▼動物はときに自然を破壊するが自然を単純化はしない。しかし人間は手を加えて単純化する。単純化したもろい環境が世界に広がっている――。若き日の日高さんの懸念は、まさに「生物多様性」という新語を伴って私たちの前に立ち現れている▼森林の破壊や生き物の絶滅は、なお加速度的に進む。旅立たれた碩学(せきがく)お二人を「後顧の憂いなく」と見送れないのが、どうにも残念である。

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