かつて米国の誰かが言ったそうだ。「物価はエレベーターで昇り、給料は階段で上がる」。インフレ時の庶民のぼやきだろうが、今やある面、ちょっと羨(うらや)ましい▼政府は最近、デフレを宣言した。インフレの逆で、物価が下がり続けること。実際、変動の激しい生鮮食料品を除いた消費者物価指数は三月以降、七カ月連続でマイナス。十月の指数は、きょう発表される▼消費者としては、「値段が安くなるのは結構なこと」というのが普通の感覚。買い物の場面をクローズアップで見ればその通りだが、カメラを引いて日本経済をロングショットで見ると、画面の意味は一変する▼供給に対して需要が足らないから値下げ競争になるわけだが、それが続けば企業の収益は落ち込む。結果、設備投資は控えられ、従業員の賃金は下がり、雇用も危うくなる。当然、家計の出費も抑えられて一層需要は冷え込み、また物価が下がり…という悪循環に陥りかねない▼いわゆるデフレスパイラル。いわば「物価も給料も、らせん階段で下りる」状況だ。折しも、急激な円高も進む。輸入品の値が下がれば、これまたデフレを加速する恐れがある▼インフレより難しいともいわれるデフレ対策。だが、それを誤れば、やっと上向き加減になった景気は失速する。そうなれば、鳩山政権の評価が下がるのは必定だ。恐らく、エレベーターで。