外国産の新型インフルエンザワクチン接種による副作用の発生で慌てふためくわが国の現状から浮かび上がるのは、ワクチン行政の貧困だ。その抜本的な見直しを真剣に考えなければならない。
英国の製薬会社グラクソ・スミスクライン(GSK)がカナダで製造した新型用ワクチンの接種を受けた患者から、通常よりも高率で重いアレルギー反応など副作用が発生していたことが分かった。
国内では国産ワクチンを小児などに優先接種しており、来年からは高齢者らを中心に外国産を使うことになっている。
その輸入先がスイスのノバルティス社とGSKだけに副作用の発生率に敏感にならざるをえない。
長妻昭厚生労働相が二十四日、来月上旬までにカナダへ調査団を派遣し、副作用が特定の生産ライン・時期のワクチンか、ワクチン全体の問題なのかを見極めることを表明したのは当然だろう。
だが、ワクチンを全量国内で生産する体制ができていれば、副作用の程度、広がり、原因などをもっと迅速に究明できる。
わが国のワクチン行政は他の先進国に比べ、製造、承認、公費支援などの面で遅れが目立つ。
その背景の一つには、一九九〇年代初めの予防接種による副作用をめぐる訴訟をきっかけに予防接種法が大幅に改正され、先進国と反対に「法定接種」を減らしたことがあげられる。薬害エイズ事件など医薬品をめぐる不祥事もあって新しい薬剤やワクチンの承認に対し慎重になり「萎縮(いしゅく)」といっていいほど消極的になってしまった。
六十五歳以上のインフルではその後、ワクチンを「勧奨」するなど押し戻したが、ワクチン行政全体としては依然停滞している。
欧米で承認、日本で未承認のものとして小児に重い下痢症を起こすロタウイルスの予防ワクチンなど多数あり、承認されても細菌性髄膜炎予防のヒブワクチンのように欧米と違い有料の任意接種が少なくない。がんワクチンとして世界初の子宮頸(けい)がん予防ワクチンが先月承認されたが、先進国では最後だ。
インフルワクチンもこうした流れの中にある。国内でワクチンを製造しているのは中小の四社しかない。これでは季節性に加え、新型用も国内製造ですべて賄うのは今後も難しい。
新型の流行を機会に、予防接種体制の強化、接種の公費支援の拡大、国内ワクチンメーカーの育成などの政策を長期的視野から立てる必要がある。
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