鮨(すし)、そば、天ぷらといえば東京には名店が多いけれど、もともとは江戸庶民のファストフードだった。単身者の多い大都会だから手軽な食べ物が人気で、さっと立ち寄れる屋台が大繁盛したという。いまでいう「おひとりさま」市場だ。
▼現代ニッポンのおひとりさまビジネスはその比ではない。カウンターで焼き肉や鍋料理を気兼ねなく楽しめる飲食店が評判かと思えば、旅行会社は意表をつく一人旅パックを売り出して好調らしい。家事代行の業者も競い合っているから、多少のお金さえあれば独居のむさ苦しさもずいぶん解消できるに違いない。
▼国勢調査によると単身世帯は増え続けて1450万にも上り、今では全体の3割を占める。晩婚非婚の独身者に加えて伴侶に先立たれたお年寄りも少なくないようだ。さまざまな事情のシングル族を相手にしたサービスが登場するのは理にかなった話とはいえ、少子高齢化の加速を痛感させて心配な光景でもある。
▼単身者にも便利だった江戸の暮らしだが、古川柳は「沢庵(たくあん)をへし折って食ふ独り者」などと冷やかしている。そこへいくと平成のシングルは堂々たるものだ。今年は都内のホテルがおひとりさま向けのクリスマス宿泊プランまで設けている。沢庵ならぬデコレーションケーキにひとり向かう図をなんと言い表そう。