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外国のタクシーにいい思い出は少ない。頼みもしない名所案内の末、支払時に「少ないよ」と日本語で泣かれたのは80年代のソウルだった。90年代のアテネでは、ギアチェンジのたびに料金メーターを指で加算する「名人芸」を見た▼どちらの街もオリンピックを境に運転手の質が上がったと聞く。東京五輪のお陰かどうか、日本のタクシーは昔から安心だ。明朗会計、まずは紳士的なドライバー、車内禁煙も助かる▼業界は今、不況と過当競争にあえぐ。新規参入などが大幅に自由化された結果、車は増えたが客足が伸びない。稼ぐには寸暇を惜しんでハンドルを握るしかないのか。逆境の下、安全、快適、安価、迅速といった輸送の品質をどう保つかが問われている▼さて、これは質を高める動きだろうか。初乗り500円で営業する大阪の個人タクシー業者8人に、近畿運輸局が値上げを命じた。業者は「ワンコイン」を続けたいのだが、「適正利益が出ていない。安全を確保できない」と拒まれた▼損するために走る車はない。要は規制の緩めすぎを改め、初乗り600円台の「秩序」を作り出す策に見える。運転手さんの体は大切だし、過労で居眠りされても困るが、理由のある安さなら役所の出る幕ではない。ゆめゆめ、努力不足の業者を守る愚とならぬよう願いたい▼大阪では全車の1割近い約2千台が初乗り500円で走る。花より実を重んじる利用者が業者の努力を促すのだろう。初乗り710円の地からは、商都の無秩序、いや知恵比べがまぶしくも映るのだが。