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鳩山由紀夫首相の資金管理団体をめぐる偽装献金問題に絡んで、また新たな問題が浮上した。首相の母親の資金が、偽装献金の原資だった疑いが出てきたのである。
一連の問題ではまず、資金管理団体の政治資金収支報告書に記載された個人献金者として、亡くなった人や献金した覚えのない人の名前が含まれていたことが発覚。東京地検は、1件5万円以下で氏名を記す必要のない献金の大半と合わせ、2億円超を偽装と見て、元公設第1秘書を政治資金規正法違反(虚偽記載)の疑いで立件する方向で詰めの捜査に入っている。
焦点のひとつが、偽装献金の原資はだれのカネか、である。首相は6月の記者会見で、首相個人の資金だったと説明した。今月4日の衆院予算委員会で、母親からの資金が含まれるか聞かれた際も「知る範囲でそのようなことはないと信じている」と答弁した。
ところが関係者によると、04年から08年に、数千万円の母親の資金が原資に充てられていた疑いがあるという。事実とすると、問題は新たな局面に入ることになる。
政治家本人以外の個人が資金管理団体に献金できるのは年150万円までであり、今回の疑惑はこの上限を大きく超える。首相への贈与なら贈与税が生じる可能性がある。首相への貸し付けだったとすればそうした問題は起きないが、すべて自分の資金だと言ってきた従来の説明と明らかに食い違う。
首相は母親の資金が充てられた疑惑について「私の知らないところで何が行われていたのか。真実が見えないところもあって大変驚いている」と記者団にコメントした。首相は先に、恵まれた家庭に育ったことを理由に挙げて「資産管理が極めてずさんだった」と記者団に語ったが、事実なのに知らなかったとすれば、もはやずさんという言葉で言いあらわすこともできない。
首相は予算委で、政治改革に取り組んできた自らの原点について「おカネを持っている持っていないではなく、青雲の志を持った人間が国会議員になれる道をつくろうというところがスタートラインだった」と語った。
だが、実際は金持ちの有利さを最大限に活用してきたのではないのか。うさんくさい企業からのカネではなく、自分のカネなのだから問題ないと高をくくっていたとすれば、思い違いもはなはだしい。
もし、首相がこうした献金偽装の内実を承知していたとすれば、自身が法律違反に問われることになる。事態の重大さを認識しているのだろうか。
首相は所信表明などで国民へのおわびを語っているが、疑惑は次から次へとわいて出る。自民党などが求める衆院予算委での集中審議に応じ、献金をめぐる追及に正面から答えるべきだ。
納税者の所得や資産を把握して、公平に課税する。そのために政府が納税者全員に番号を割り振る。こうした「納税者番号制度」の導入に、菅直人副総理が前向きだ。
「子ども手当」に所得制限を設けるかどうかをめぐる鳩山政権内の論議で、このテーマが浮上。菅副総理は「公平性という問題で、超党派で考えないといけない段階に来ている」と指摘した。民主党は政権公約で「所得の把握を確実に行うために、税と社会保障制度共通の番号制度を導入」とうたっていた。早期導入をめざし、具体案づくりを進めるべきである。
納税者番号制度は主要国では標準装備とも言えるほど普及している。米国やカナダ、イタリア、韓国、北欧諸国、豪州は60〜80年代に導入。ドイツは今年、導入に踏み切った。
納税者番号をどう使うのか。
たとえば、社員に給与を払うとき、預金者に利子を払うとき、企業や銀行がそれらの情報と支払い相手の納税者番号を一緒に税務署に知らせる。税務署は、寄せられた情報と納税者から申告された内容が合っているかどうかを確認する。こうして課税逃れを防いでいこうという制度だ。
貧困対策に有効とされ、鳩山政権が検討している「給付つき税額控除制度」も、納税者番号なしには実現できない。欧米ではこの仕組みを使って低所得者に給付金を出している。
日本では、麻生政権が配った定額給付金は全世帯が対象だった。所得制限を設けることも検討したが、世帯ごとの所得情報を正確につかむのが難しいため断念した。
米国や北欧諸国は、社会保障番号と一体で運用している。日本でもそうすれば、「消えた年金」のような事態は起きにくくなる。
きめ細かい貧困対策や社会保障、公正な税制をつくっていくには、納税者番号制度は欠かせない政策基盤だと考えるべきである。
日本では、たびたび検討されながら導入できなかった。80年には「グリーンカード」導入の法律が成立しながら実施されないまま廃止された。
その最大の理由は、所得や資産を知られることに国民の間で不安や反発が強かったことだ。最近では社会保険庁職員が著名人の年金記録をのぞき見した事件などがあって、個人情報の漏洩(ろうえい)を心配する声は今もある。
だが、不安を理由に導入を見送っていては、公平な課税や必要な貧困・福祉対策が実現しない。
法律で納税者番号の目的外利用を禁止し、厳しい罰則を設ける。データの暗号化など新技術を駆使して不安を最小限にする。そうした対策で個人情報保護に万全を期しつつ導入への道を進むことを、ためらう必要はない。