大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)は、クロマグロ漁の大幅な規制強化を決めた。それでも全面禁漁よりはいい。問われているのは、乱獲と飽食の後始末。これも生物多様性の問題だ。
昨年は対前年二割、今年は四割、漁獲枠を削減された。来年の資源調査の結果次第では、一時的に全面禁漁にされることにもなった。巻き網漁の漁期は、五月半ばから一カ月間に短縮された。
日本が四割削減などの提案に同調したのは、来年三月のワシントン条約締約国会議で、クロマグロの取引が全面禁止になるのを避けたいからだ。条約で一度禁止されると解除は難しい。クロマグロの保護を求める欧米諸国には、これでも不満がくすぶっており、会議の行方はわからない。
ICCATのほかにも、みなみまぐろ保存委員会(CCSBT)など四つの国際機関が、海域ごとにマグロ類の資源管理に当たっている。それぞれに規制を強めており、マグロ包囲網の様相だ。乱獲の原因とも目される、巻き網漁を思わせるのは皮肉である。
ICCATが管轄する大西洋産のクロマグロは、国内消費量の過半数を占める。消費全般の冷え込みで、すぐには値上がりしないのも皮肉だが、近い将来、食卓に影響が出るのは避けられない。歌手の中島みゆきさんは紫綬褒章受章の喜びを「棚から本マグロ(クロマグロ)」と表現したが、さらに希少になりそうだ。
マグロ漁の規制強化は、乱獲のツケにほかならない。七つの海の果てまで幼魚も追いかけ回し、捕獲して太らせて安く食い散らす、今の食生活を続けていれば、いかに海が広いとはいえ、いつか資源が尽きるのは当然だ。世界のクロマグロの八割を消費するわれわれは、それに気づかなかった。
来年十月には、名古屋市で生物多様性条約第十回締約国会議(COP10)が開催される。これが問うのも、まさにこのことだ。
国際自然保護連合(IUCN)は、絶滅の恐れがある生物の「レッドリスト」を発表した。昨年より三百六十三種類増えて、全体の36%に上る。この多くが、人間の仕業であるのは明らかだ。
COP10開催を前に、まずはマグロの資源管理を強めたい。漁業者は捕り方を、流通関係者は売り方を、そして消費者は買い方、食べ方を、もう一度考え直してもらいたい。これからも、いつまでも、味わい続けていくために。
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