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江戸から始まる「おくのほそ道」の旅は、東北、北陸を経て岐阜の大垣で結ばれる。芭蕉がそこから伊勢に赴いたと知り、「続き」を歩いて紀行風の記事にしたことがあった。妙な句も添えていて、思い返すと顔が赤らむ▼大胆といえば、この本も相当な代物だ。俳人312人の投票により、俳聖の作に順位をつけた『松尾芭蕉この一句』(柳川彰治編著、平凡社)。編者は「不謹慎かと腰が引ける感じもあった」と告白する▼約1千とされる作品のどれが好きか、多くの人に答えがあろう。当方の好みは166位の〈箱根越す人もあるらし今朝の雪〉、126位の〈朝露によごれて涼し瓜(うり)の泥〉。40位の〈名月や池をめぐりて夜もすがら〉……▼おっと、このまま佳境に言い及ぶのは推理小説の結末を明かすに等しい。結果は選者の弁をつけて下位から並び、ページを繰るたびにサスペンスが募る趣向だ。上位はいずれ劣らぬ有名句。誰もがそらんじるあれが13位に押し出されるのだから、投票者の苦心がしのばれる▼企画の妙とはいえ、俳句で二匹目のドジョウを狙えと言われたら途方に暮れる。芸術の分野を問わず、作品を並べてひとしきり遊べる作家は少ない。周知の作が山とあってのランキングである▼芭蕉評は各様だ。俳壇での神格化にうんざりしていた正岡子規あたりは「過半悪句駄句を以(もっ)て埋められ」と辛かった。その上で、可なるもの200余句と認める。すそ野が広いから攻め方がいくつもあり、仰ぐ高峰は異なる姿を見せるのだろう。改めて山の大きさを思う。