法廷を舞台にした映画の最高傑作「十二人の怒れる男」をリメークしたロシアの映画(ニキータ・ミハルコフ監督)がある。殺人事件を審理する十二人の陪審員が議論を尽くし、全員一致で「無罪」の評決に至るまでをリアルに描くのは同じだが、チェチェン戦争が影を落とすロシアの現代社会が背景的に描かれていて興味深かった▼陪審とは違い、職業裁判官三人が評議に加わる裁判員制度がスタートして半年。九月末までに判決が出た十四事件の裁判員経験者のアンケート結果では、ほぼ全員が「よい経験」と評価した▼ただし、被告が起訴内容を認めた事件ばかりで、否認事件や死刑が求刑された事件は含まれていない。順調な滑り出しと評価するのは早計だろう。本番はこれからだ▼今月、通知が送られた来年の裁判員候補者は約三十四万人。約三百人に一人の確率だ。プロの裁判官に対しても、堂々と「怒れる裁判員」として、論陣を張れるような評議であってほしい▼気になるのは、判決後の記者会見に出席した裁判員経験者が、守秘義務違反を意識し過ぎているように見えることだ。立ち会った裁判所職員が報道の自粛を要請する場面もあった▼「検閲官」のような監視役は不要だ。もっと自由に語れる雰囲気をつくれないだろうか。広い経験の共有がなければ、制度に命が吹き込まれることはないのだから。