「遺児の教育費問題は、解決したんじゃないの?」。あしなが育英会がこの秋、全国一斉に展開した募金活動の際、こんな質問が何件かあったという▼募金額は約一億五千六百万円。昨年より五百万円減った。不況の影響や、新型インフルエンザの流行で街角に立つ学生ボランティアが激減したことに加え、政権が掲げる公立高校の授業料無償化の報道で、「民主党がやるから募金は不要になる」という誤解が広がったことも背景にあるようだ▼昨年来の不況は母子家庭を追い詰めている。育英会の緊急アンケートで浮かび上がるのは、交通事故や自殺などで夫を亡くし、必死に働く母親の半数近くが「病気」「病気がち」と答える疲弊した姿だ▼今春、高校進学の予定だった遺児の母親の平均年収は約百三十五万円。教育費不足で高校退学や進路変更を強いられた家庭は三割に上り、教育費不足が子どもの学習意欲を減退させたという声が目立つ▼厚生労働省が発表した一人親世帯の相対的貧困率(二〇〇七年)は54・3%。母子、父子家庭の半数以上が貧困の状態にあるという先進国では最低レベルの数字だ▼無償化だけでは大学進学が困難である現状は変わらない。「貧困の連鎖を断ち切れるように」。育英会のアンケートに母親の願いが控えめに書かれていた。政治が真っ先に救済すべきなのはこの人たちである。