「大統領」という言葉は、いったい誰がつくったのだろう。大工の「棟梁(とうりょう)」から来ているのか、人々のかしらの「頭領」に由来するのか。英語の「プレシデント」を大統領と訳すのは、同じ漢字の文化圏でも日本と朝鮮半島だけらしい。
▼「大統領」が初めて外交文書に登場したのは、幕末にペリー提督が来航した年。選挙で選ばれた元首だと聞いて、江戸の権力者は驚いたようだ。平民出身だから「国王」ではおかしい。「合衆国主」や「大頭領」などあれこれ試した末、今の名前が定着した。ちなみに中国では、米国大統領は「美国総統」である。
▼欧州連合(EU)の初代の大統領が決まった。指名されたベルギー首相のファンロンパイ氏は、人口5億の大欧州の顔になれるだろうか。英語ではプレシデントだが、域内の人々が自ら投票して選んだ最高権力者というわけではない。正確にいえば、EU加盟国の首脳が集まる欧州理事会で、常任の議長を務める。
▼プレシデントは所属する組織によって、いろいろ訳語が使える。会社なら社長。銀行は頭取。総裁や学長もあれば、単に会議の司会者を指すこともある。見る側の目によって、その存在感はいかようにも変わる。意味に含みがある役職名を選ぶのも欧州の知恵か。EU大統領の重みを決めるのは大統領自身だろう。