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年に12ある月々に優劣はないが、11月のイメージはいささか不遇かもしれない。木枯らしが吹き、つめたい雨が野山をたたいて、冬枯れに向かう寂しさが身にしみる。なればこそ、だろう。陽光穏やかな日の幸福感はひとしおだ。〈玉の如(ごと)き小春日和を授かりし〉の名句が俳人松本たかしにある▼そんな一日、甲州の大菩薩嶺を歩いた。雪を頂いたアルプスが遠くに光る。〈晩秋の峰は徳高き老翁のすがた。なんと気高い、なんと地味な姿で、その銀の高い額(ひたい)をかがやかしているのだろう〉。往年の名登山家、大島亮吉の短章が胸に浮かぶ▼南へ目をやると富士山が白い。銀に装う連山を従えるように、この峰の容姿と高さは他を寄せつけない。枯れた草に寝ころんで、いつまで眺めていても飽きることがない▼かつて、勤労感謝の休みのころの富士山はにぎわった。冬山前の雪上訓練に山岳会がやってきて、山梨側の5合目にはテント村ができたものだ。新人は夜になるとテントを追い出されて夜を明かした。しごきではなく、露営の訓練である▼5合目にある山小屋に聞くと、近年は雪が遅く、付近はまだ根雪になっていないそうだ。「富士山に秋はない」と冬の到来の早さを言ったのは、山頂測候所に勤務した作家の新田次郎だった。温暖化のせいか、最高峰でも季節は遅れ加減らしい▼歳時記によれば、秋の山は「山粧(よそお)う」、冬の山は「山眠る」と言う。秋の装いを終えた山々が眠りにつく中、ひとり富士山だけが玲瓏(れいろう)と屹立(きつりつ)する。そんな「日本の冬」が間もなくやってくる。