もう昔だが、インドのデリー空港に降り立った時、カレー粉のにおいがしたのを覚えている。別の機会、ソウルの金浦空港では、キムチのにおいがした▼いわば「その国のにおい」。その点、わが国は無臭…と思っていたら、外国人の知己曰(いわ)く、「日本の空港に着くと魚のにおいがするよ」。なるほど、確かにこれほど魚好きの国民はない。すしなどの魚食文化は海外にも広がったとはいえ、例えば、世界でとれるクロマグロの八割は日本人の胃袋に収まるそうだ▼だが、それが資源維持、種を脅かしているようで、東大西洋などのクロマグロの漁獲枠は、昨年の対前年二割減に続き、今年は四割減と国際会議で決まった。全面禁漁を求める国もあり「魚の国」への視線は冷たい▼それが流れなら、将来的に頼りにすべきは、あれしかない。近畿大水産研究所(和歌山県)が七年前、世界で初めて成功した「完全養殖」だ。天然幼魚を捕獲して育てる養殖(蓄養)と違い、人工ふ化したマグロが産んだ卵を人工ふ化させるため、資源には一切、迷惑をかけない▼研究所に聞くと、今年の幼魚生産は過去最大の四万匹。この年末年始には、既に実現している自前ではなく、研究所産の幼魚を一般の養殖業者が育てたクロマグロも初めて市場に出てきそうだという▼資源不足に技術で対応。そういえば、日本は「技術の国」でもある。