あのころの華やぎはどこへ消えたのだろう。フランス産ワインの新酒「ボージョレ・ヌーボー」がすっかり高級感を失い、スーパーには格安品が山積みだ。フルボトルで749円と聞いて店頭をのぞいたら、さすがにこれは完売だった。
▼値下げ合戦が熱を帯びている。家電もパソコンも衣料品も外食も、果てしない消耗戦というべきか。880円のジーンズが登場したとたん、こんどは別の量販店が690円で張り合っている。銀座のデパートでは高級ブランド店の撤退跡に、ファストフードならぬ低価格の「ファストファッション」が入るという。
▼モノが安いのは、まずは家計にとって嬉(うれ)しい話だ。しかしこれがまた景気悪化を招いて人々の財布のひもはますます固くなり、不況がさらにひどくなると思えば嬉しさも帳消しどころではない。きのう政府は日本経済がデフレ状況にあると宣言した。そう診断したなら一刻も早く、この厄介な病に効く薬が欲しい。
▼来春卒業する大学生の就職内定率は、かつての「氷河期」並みの落ち込みという。木枯らし吹く街で、足を棒にして会社を回る学生たちがあふれているのだ。いかに身近な品々が安くとも、明日への希望を持てぬ世の中のなんという寒々しさだろう。ありがたい格安ボージョレにもじわりと募る、苦み渋みである。