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11月21日付 編集手帳

 杉山平一さんの詩が好きで、小欄にも何度か引いた。たとえば『風鈴』。〈かすかな風に/風鈴が鳴つてゐる/目をつむると/神様 あなたが/汗した人のために/氷の浮かんだコップの/(さじ)をうごかしてをられるのが/きこえます〉◆60年以上も前に編まれた詩集『夜学生』の一編だが、「格差」「貧困率」といった暗い言葉が飛び交う現代に働く人たちを、慰めるかのような、抱きとめるかのような優しい響きがある◆95歳を迎えた杉山さんの新著、『巡航船』(編集工房ノア)が出版された。詩集ではなく、自選の文集である◆花森安治や立原道造と結んだ青春期の交友、会社勤めの照り曇り、幼い長男を亡くした悲しみなどが(つづ)られている。杉山さんの詩を愛誦(あいしょう)する人は、作品の生まれてきた母胎に触れることができて興味が尽きないだろう◆〈むかし帽子の上に光る()(しょう)のやうな人間になりたいと思つてゐた/いま自分は靴のうらに光る鉄鋲(てつびょう)のごとき存在にすぎない/人しれず 支へつゝ/()りへらんかな〉(『徽章』)。その詩は、屈託を抱えた人々の心を人知れず支えて、いまも磨り減ることはない。

2009年11月21日01時32分  読売新聞)
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